第八十七話 理由は漢字。あ、誤字か。 「さて、と」 ピーチの話が終わり、ロイの顔色が元に戻った辺りで、にこっと微笑みながらナナが言った。 「で、なんで彼女が好きなの?」 「えっ」 にこにこと楽しそうに言うナナに対し、だがロイは驚いたように顔を歪めた。そういえば、と直後彼は先ほどの事を思い出す。 「皆分かったことだし、好きな理由言ったって良いよねー?」 ネスは近くで微笑んでいるだけで何も答えない。そういえばさっきそういうことを言ってたわね、とゼルダやプリンもロイに視線を向けた。 「だからそんなに人のこと気にすんなっての。ったく、わざわざなぁ……」 言い訳をするようにそう言いながら、ロイは頬をぽりぽりと掻く。だがナナの視線・興味ともにロイから外れることはなく、見せ付けるような笑顔にロイが溜息をついた。 よく見れば、ゼルダやプリンの側にいるピーチも笑顔である。それがにこにこ、というよりはにやにや、という様子だったため、『あー余計言いたくねえな』とロイは彼女から視線をそらした。 「理由ったってなぁ……」 言葉を濁らすロイに、だが女性陣の様子は変わらない。しばらく困った様子を見せていたロイだったが、そのうち諦めたように呟いた。 「“感じ”、かな」 「…………え?」 一言のその答えに、ナナが聞き返す。ロイは『だから、“感じ”だよ』ともう一度繰り返した。 「好きな理由言えっつってただろ。だから言っただけだぜ?」 その答えに、もちろんというかナナは不服そうで。 「それが理由ー? っていうか、“感じ”って何?」 「“感じ”は“感じ”だよ。それ以外に言いようがねえな」 余裕が出てきたのか、今度はロイが悪巧みをするような笑顔で言う。ナナはそれがつまらないらしく、むぅーとふくれっ面を見せた。 「そういえば、スーさんと話しているときにも“感じ”って言葉が出てたわよね。どういう意味なの?」 と尋ねるのはゼルダ。そうやって尋ねられても、とロイは頭を掻いた。 「その人がまとってる風とか、雰囲気とか、そんなところかな」 余計分からない、と言う様子を見せるゼルダに、ロイは小さく笑った。それを聞いてもナナの表情は変わりなく、不満そうである。 「もっと具体的に言ってよ〜。好きな人の好きな理由!」 「って言われても――」 「なになに、好きなひとー?」 と、ナナとロイの会話に唐突に入ってきたのは、ピンク色の丸い生物、カービィだった。ロイの肩に乗るようにして現れた人物に、おっと、とロイの思考が移る。 「ロイの好きな人判明したのー? だれだれー?」 「誰だと思う?」 楽しそうなカービィに、ナナもニッと笑って言った。ナナの発言を聞き、えっとね、とカービィはロイの肩に乗ったまま周りを見渡す。 「んじゃ、あの人!」 そうしてカービィが指差した――正しくは腕を向けた、になるのだろうが――相手は、なんとスーだった。 『いっ!?』と、ロイが驚いた様子を見せる。ナナはナナで、きょとんとした顔つきになっていた。 「なんでそう思うの? ってか、さっきまでの会話聞いてた……んじゃないよね?」 「さっき話してたの、楽しそうだったからー。それにスーちゃん、なんかロイと雰囲気似てるしー♪」 にこにこと楽しそうに言うカービィ。その発言を聞き、ロイはその表情をただの驚きから感心に変えた。 「“感じ”とかか?」 「うんうん、“感じ”!」 カービィがその謎の単語を理解しているようなそぶりに、ナナは不満そうな顔を作った。ゼルダはそのロイとカービィのほのぼのとしたやり取りに、微笑みを浮かべる。 「まぁ、頭で考えるより感じろってことなんでしょうね」 呟くようにサムスが言う。そうなんだろうけど、とナナはやはり微妙な様子だった。 「何かやっていたのは終わったのかい?」 続いて近くに歩いてきたのはマルス。ロイはそれに気づくと、まぁな、と苦笑を浮かべながら答えた。 ぴょい、とロイの肩からマルスの肩に移動しながら、カービィが口を開く。 「ねーマルス、ロイの好きな人ってあの人なんだってさー」 「って、ちょっおい! カービィ!」 カービィが指差した方向へマルスが視線を向けるより先に、ロイが制止の声を掛ける。必死でカービィを止めようとしているロイを見て、ゼルダやピーチは笑った。 「えー、別に良いじゃん減るもんでもないしー」 「そういう問題じゃねえだろ!」 おいおい、と呆れた様子のロイを眺め、マルスはくすくすと笑う。カービィの行動に呆れながらも、ロイはやれやれ、と困ったような笑みを見せた。 「そういうのは内緒にしておきたいんだから、そんな簡単に言うなよ」 「んじゃ、簡単じゃなきゃ良いのー?」 「そういう問題じゃねえってば!」 「でも実際そういう問題だよね、十分バラしちゃってるんだし」 ネスの呟きが聞こえて、マルスは小さく笑った。ロイはじろーっと睨むように、そう言ったネスを見る。 「大体誰のせいだよ、誰の」 「まぁまぁ」 相変わらずあっけらかんとしているネスに、ロイも呆れるしかなかった。 光陰矢のごとし、とはよく言ったもので。 もともと日帰りの予定だったため、あっという間に帰る時刻となってしまっていた。 「ロイ様、また行ってしまわれるのですね」 「うん、もともと少し戻ってくるだけだったから」 名残惜しそうに言うのはロイの幼馴染であり乳兄弟でもある青年、ウォルト。その隣にはこれまたロイの幼馴染であるリリーナの姿もあった。 「ロイ、他の人に迷惑掛けちゃ駄目よ」 「分かってるって。ただの迷惑はかけないよ」 ただの、と付け足す辺り、からかいはするんだろうなとマルスは思う。リリーナはそれには気づかなかったらしく、それなら良いんだけど、と微笑を見せていた。 「ロイ様、そちらのお屋敷でも健やかに生きてくだされよ」 「ありがとう、マーカス」 老将とも言える、白髪の男性に対してもロイはそう答えた。他にも数人、ロイよりも年上の人物に同じように答えているのを見て、ナナがふと思う。 「こうやって見ると、ロイ君ってやっぱり偉いんだねぇ……」 「でも、マルスもでしょ? 確かマルスのほうはお父さんが既に亡くなってるはずだから、一番偉かったはずだし」 隣でそう言うのはやはり相棒・ポポだった。それはそれ、これはこれ、とナナは割り切って答える。 「スーさんはいないのかしら」 と呟いたのはゼルダ。プリンやサムスも口には出さなかったものの、同じようなことを思っていたらしい。 その呟きはロイには聞こえていなかった。 やがて別れを告げ、ロイはここにやってきた屋敷の住人達のほうへと戻ってきた。帰る方法も来た方法と同じく、バスのようである。 「んじゃ行くか!」 別れはもう済ませたし、と晴れ晴れとした表情で言うロイに、だがゼルダは我慢しきれなくなって尋ねた。 「ロイ君」 不安そうな面持ちを見せているゼルダに、ロイは何かと意識を移す。 「スーさんとは……いいの? お別れ、していなかったようだけど」 その言葉を聞くと、ロイは『なんだ、そんなことか』と言わんばかりに笑みを見せた。 「どこにいたって、母なる大地の加護も、父なる天の恵みも同じだからな」 「えっ?」 ロイの言葉の意味がよく聞き取れず、ゼルダは聞き返す。だがロイはニッと笑って、一言で答えるだけだった。 「何でもねぇよ」 あんまり話に進展がないような。(爆 そういえば、ここまで書いておいてなんですが、 ロイスー嫌いな方には御免なさい、としか言えませんよね、これ……(痛。 平成18年9月24日UP 八十六話に戻る 八十八話に進む |