第八十八話 結局彼女は元気っ子。 バスがフェレの城から離れていく様子を、ロイはその中から眺めていた。 やはり故郷を離れるのは名残惜しいのか、窓のふちに頬杖をついてそちらばかり見ているようである。 「ロイ君って、やっぱり色んな友達がいたのねー。城の中走り回って、けっこー楽しかったし♪」 「ナナ、あんまり失礼なことはしてないだろうね?」 帰りも席順は同じらしく、ロイの耳には自分の後ろの席に座っているアイクラの声が聞こえてくる。 失礼なことっぽいのは特にないかな、などとロイは何気なく思っていた。 自分の前の席では、リンクとゼルダがハイラルの城との違いを喋っているようである。 前後の会話を聞きながらも、視線は窓の外に釘付けになっているロイを、サムスは無言で見つめていた。 「……くすっ」 「? どうしたでしか?」 唐突に笑みを漏らしたネスに、隣に座っていたプリンは疑問符を飛ばした。ネスは横を向くと、『ううん、ちょっとね』と笑いながら答える。 「もうすぐ、かな」 「? 何がでし。はっきり言うで――」 「!!」 がばっ。 プリンの声が終わる前に、動いているバスの中で唐突にロイが立ち上がった。その行動に驚くのはサムスだけでなく、ナナやポポも同様である。 ロイは直前まで窓の外を見ていたはずだが――。 「運転手さん、止めてくれっ!」 唐突にそう叫んだかと思うと、ロイはすぐに窓を全開にした。程なくしてバスが止まると、ロイはその窓のふちに足を掛ける。 「えっ、ちょっとロイ――」 サムスの制止の声にも拘らず、ロイはそのまま窓の外に飛び出した。同じバスに乗っていた屋敷の住人たちは、このロイの行動に驚きを隠せないようである。 「ロイ君、どうしたの?」 「窓の外見てたみたいだけど……」 相棒の発言に答えながら、ポポが窓の外を見る。お喋りをしている間に城からは離れてしまったようで、止まった位置から見える城はかなり小さくなっていた。 その城のほうへ走っていくロイ。最後尾の席からそのロイの行く先を見ていたマルスは、ふと気づいた。 「城から……誰か、やってきているのかい?」 随分と離れた城から、何者かがロイの方へと駆けているように見える。が、相当の距離があるらしく、人の形と服の色が辛うじて見える程度である。 それが誰なのかは判別できなかった。 「誰かこっちに来てるー。ロイ、その人のところに走ってるみたいだよー」 マルスの肩から窓を覗き込むようにして見ているカービィが言う。その発言を聞いたとき、ふとナナとピーチは気づいた。 「カービィ、それ誰だか分かる!?」 後ろの席にいるカービィに尋ねるナナ。カービィはナナのほうを向き、『ううん、分かんない』と言いながら首を横に振り、もう一度窓の外を見た。 「赤い服を着てるくらいしか分かんないよー」 「馬に乗っているみたいだけど……」 マルスの発言を聞きながら、彼の隣に座っているピーチはそれを見て、ニッと笑みの形を作った。 バスはロイが降りてからずっと止まっているため、こちら側にやってくる人物の姿はだんだん大きくなる。と同時にロイの姿は小さくなり、程なくして同じくらいの大きさ――つまり、同じ位置になった。 「馬でバスに追いかけるつもりだったのかしら」 ピーチの呟きが聞こえた、その膝の上に乗っていたピチューは、首を斜めに傾けた。 「スー!」 近くまで来ると、赤い服の少女は馬を止め、見るからに軽い身のこなしで飛び降りた。 そしてロイの目の前に着地する。走ってきたロイも足を止め、にこっと微笑んで見せた。 「どうしたの、こんな所まで……」 「これを探していたの」 そう言いながら、スーが懐から取り出したのは、紐のついた牙だった。ロイが『?』マークを浮かべていると、スーはそれをロイの方へと差し出す。 「あらゆる災害を防ぐと言われている、牙のお守り。渡そうと思っていたけど、直前に見失ってしまって」 「スー……ありがとう」 にっこりと、笑顔を見せながらそれを受け取るロイ。つられるように、スーも柔らかく微笑んだ。 「それじゃあ」 「あっ、スー!」 そう言い残し、馬の方へと身体を向けるスーに、ロイはとっさに声を掛けていた。 馬の背に手を当てながら、スーがロイの方を振り向く。 「……元気で」 受け取ったお守りを強く握りながら、ロイは呟くように言った。 「……ええ。ロイ様にも、父なる天の恵みと、母なる大地の加護がありますように」 言い残し去っていく彼女の後姿を、ロイはしばらく見つめていた。 「ロイ、おっそーい!!」 「悪ぃ悪ぃ」 バスの出入り口から入ったロイに最初に声をかけたのは、最後尾にいるはずのカービィだった。 最前列の席であるリンクの帽子の上に乗っているカービィを片手で掴みながら、ロイはその横を通って自分の席へと移動する。 そのままぽーいと、マルスのいる最後尾の席のほうへとカービィを放り投げた。元々カービィの身体は柔らかいので、軽く投げられてもダメージらしきものはない。 はぁ、と自分の席に座った途端、ロイは隣と前後から視線が注がれたのに気づいた。 「さり気ない振りして、結構ラブラブなのね〜」 「わざわざ馬で追ってくるなんてね」 そうからかうのは後ろの席のナナ。ポポも苦笑しながら、だが同じようなことを考えていたようだ。 「おいナナ、別にそんなんじゃねえっての! こっちに来てたのだって、渡そうと思ってたものを渡すためだろうし」 「その渡そうと思っていたものって、それ?」 と、ロイの手の中を指差しながら言うのは隣の席のサムス。どれ? と前の席から背を伸ばし後ろを覗き込もうとするゼルダに、リンクは苦笑した。 三人の視線に気づき、ロイはそれを隠すように手で覆う。 「っと、別に何だって良いだろ!」 「別に隠さなくたって良いでしょ♪」 楽しそうな口調で言うナナに、ロイは呆れを見せた。どうにか持っている物を隠しながら、後ろの席の人物に言う。 「だいたい、そういう風な人から貰ってるものなんて言ったら、マルスの方が色々と貰ってるんじゃねえの?」 「? 何でマルス?」 唐突に話題に出た人物に、ナナが不思議そうな顔をする。だって、とロイは続けた。 「マルスには婚約者がいるだろ?」 一瞬、ナナの思考が停止した。 「……そうだっけ?」 「ああ、そういえば。僕もすっかり忘れてたけど」 隣のポポは何気ない様子で、あっさりとそう言う。ナナは驚きの表情から、やがてゆっくりとその顔を笑みに変えた。 その辺りで、ポポもふと気づく。ナナは後ろを向いて席から身を乗り出すと、最後尾にいるマルスの方を向いて叫んだ。 「マールスっ、婚約者ってどんな人ー!?」 「ナナしゃん、煩いでしっ!」 後ろを向いたナナの声に、ナナの後ろの席のプリンが文句を言う。その隣のネスはまた、くすくすと笑っている。 「どんな人って言われてもなあ……」 マルスは苦笑しながらも平然とそんな返事をしているが、その隣に座っている――というか、初めからマルスの席の隣を強引に選んだ――ピーチは開いた口が塞がらない様子だった。 「えー、マルスはボクのっ!」 彼の胸にがしっとしがみつきながらそう言うのはカービィ。その隣ではピカチュウがその行動に対して文句を言っている。 「ちょっとマルスー、教えてよー!!」 「ナナしゃん、大声は止めるでし!」 プリンの文句など全く聞こえない様子でそう叫び続けているナナに、ネスはただ笑うばかりである。 後ろを見たときにそのネスの表情が見えて、ロイは嫌な予感がした。 「この調子だと、今度はアリティアに行くって言いそうね」 隣のサムスの呟きに、やっぱりかと言わんばかりに溜息をつく。 「もう勝手にやってくれ……」 帰宅した一同を発見した、夕飯に足りない材料を買いに出かけようとしていたルイージが『お帰り』と声を掛けると、ナナは非常に楽しそうな表情でこう言った。 「よーし、次はアリティアに行っくよー!!」 それからも、ナナの探索はしばらくの間続いたようである。 話がグダグダになってきたので、強引かもしれませんが強制終了、ということで(汗。 これにて五部完結です。オチも何もあったものじゃありませんが(爆)。 ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました! 平成18年10月8日UP 八十七話に戻る |