第八十二話 そう調べるな、照れるから。 「ソフィーヤ」 名を呼ばれたことで、その女性はその儚げな瞳をロイの方へと向けた。 不安がっているようにも見えるが、どうやらその表情が彼女の普段の表情のようである。 「ロイ様……」 「ソフィーヤ、さっきはありがとう。お陰で助かったよ」 「いえ……」 笑顔を見せてロイが言うと、ソフィーヤも表情をほがらかなものに変えた。 「それに、わざわざフェレにまで来てもらえるとは思ってなかったから。ソフィーヤが来てくれて、凄く嬉しいよ」 「そんな……」 そう言って、ソフィーヤは少し頬を赤らめた。その顔を隠すかのように、ほんの少し俯きがちになる。 「ナバタでは、元気だった? そういえば、ファは来てるの?」 等々と話しかけるロイとそれに答えるソフィーヤの姿を、だが本人達は他の所からじっくり見られているとは思っていなかった。 「……見るからに、親しげな雰囲気ね」 サムスがポツリと呟くように言った言葉に、ナナは大きく何度も頷いてみせた。 ゼルダはロイのその様子に見慣れていないようで、呆然とそちらを眺めている。 もう一人の女性、ピーチはというと、何かを見定めるように鋭い目線をロイに向けていた。 「? ロイが、どうかしたんですか?」 リリーナからのその言葉で、ここにいた数人の意識がロイ達からこちらへと移った。 途端に慌てだすプリンとゼルダ。 「あ、えーとでしね……」 「リリーナさんは、ロイ君の好きな人は誰か知ってる?」 プリンの言葉を遮る、というよりは続けるように、ポポがそう尋ねた。 さきほどのプリンやゼルダのように、今度はリリーナが驚いた顔をしてポポを見る。それと同時にナナもこちらを見て、『ありがと、助かった!』という表情を作っていた。 やれやれ、と思ったのをポポは表情に出さずに、そのままリリーナを見る。 「ロイの好きな人!? ……そ、そんな、私は知らないわよ……」 着ている赤い服と同じように、顔も赤く染めながらリリーナは答える。 「ここに好きな人がいるって聞いて、友達として、誰なのか気になっちゃって。ねぇ、ナナ?」 『友達として』という言葉を妙に強調させながら言うポポ。ナナも丁度とばかりに何度も頷いた。 「うんうん、ロイ君って誰にでも優しいから、誰が一番好きなのかなって気になってねー」 「でも、内緒でそんなことを調べたら、ロイに悪いでしょう?」 あくまで冷静を装っているのか、リリーナは努めて声の調子を変えずに言った。ナナとポポは視線を一度合わせてから頷く。 「リリーナさんは気にならない?」 ナナの問いに、リリーナはう、と言葉を詰まらせた。 「……気にならなくはないけど、でもそういう事は本人の気持ちなんだから、調べるべきではないと思うわ」 その言葉に、ナナは詰まらなそうに表情を曇らせた。ポポはなるほど確かに、と納得したような表情を作る。 「じゃあ、リリーナさんはロイが自分を好きだと思ってる?」 「えっ!?」 ナナのぶしつけな問いに、リリーナは今度こそ声を上げて驚いた。 「ナナ、それはさすがに失礼だよ」 「だって気になるんだもん。ロイ君がリリーナさんを好きだって言うなら、それで一件落着でしょ」 「あのねぇ……」 呆れた表情を見せるポポに、ナナは『何よ』と口を尖らせた。リリーナは返答に困っているらしく、先ほどからもごもごと歯切れが悪い。 「ねぇ、みんな。ロイ君が――」 先ほどからずっとロイの方を見ていたゼルダが、唐突にそう口を開いた。ナナはまだ不機嫌が直っていないらしく、同じような口調で『何』とゼルダのほうを見ずに答える。 ポポとリリーナがゼルダのほうを見たのと、次の声が掛かったのは、ほぼ同時だった。 「人の事を調べて、楽しい? ナナ」 その声に、はっとしてナナは振り向いた。いたのは微妙に機嫌が良くなさそうな表情の、ロイ本人である。 呆れた様子を見せる相手に、だがナナは嫌味のようににっこりと笑って見せた。 「うん、楽しいよ〜? ロイ君あんまり自分のこと見せびらかそうとしないから、調べられること沢山あるし」 「調べなくても結構なんだけど」 さり気ない口調で、さらりとロイはそう言う。その言葉を聞いた次の瞬間、ぷぷっとピーチが吹き出した。 突然の行動に、ゼルダが驚いて声を掛ける。 「ピーチ?」 ロイはその意味が予想できているらしい、ピーチの方を向くその表情が少し白けていた。 「屋敷の頃と口調のイメージが違いすぎて、違和感がありすぎて笑えるわ〜」 「まぁ確かに、それは僕も思うけど」 と小さく彼女に同意するのはポポ。ロイはやっぱりか、と言わんばかりに溜息を一つ落とした。 「ロイ、この人たちといたときのように話しても良いのよ?」 見かねたリリーナが助けのようにそう言う。ロイはそれを聞いて『でもなぁ』と苦笑を作った。 「あのスーって子には屋敷の時の口調で言えたのに、彼女には無理なのかしら?」 笑いが収まったらしいピーチが、今度はからかうようにそう言う。そう言われてロイは驚いた顔を作った。 「な、何でそこでスーが出て……って、ナナ?」 その事を知っている人は一人しかいないはず、と思い至り、ロイは疑う目線をナナに向けた。ナナはわざとらしく目をそらす。 「まさか、カービィを探すときにも俺についてきたのって、……」 ナナは目をそらしたまま、ごまかしのために作った笑顔を強張らせた。その顔を見て、これは確実だな、とロイは納得する。 「そんな風に調べたって、面白い結果は出ないと思うぜ? 多分、そもそも判明しないと思うしな」 つーんと視線を外しているナナに、説得するように言うロイ。それを見て、また別の所から笑い声が漏れた。 「ふふっ。ロイ、口調が変わっているわよ」 え、とロイが再び振り向いた先にいたのは、リリーナだった。 「あ……」 しまった、という顔をするロイを見て、リリーナは優しく微笑む。 「いいのよ、ロイが好きなように話して。変わったなあとは感じるけど、悪いことじゃないと思うから」 「リリーナ……」 そう言い見つめ合う二人を、ナナとゼルダは少し距離を置いて見つめていた。 彼女らから見たその様子は、中々にいい感じのようである。 「それにしても、随分な自信ね、ロイ?」 その中に割り込んで声を掛けたのは、ピーチだった。ロイは顔をそちらに向け、ナナ等と同じように呆れた口調で言う。 「ピーチ姫、そりゃどういう……」 その相手の表情にもどこか自信が溢れているように見え、ふとロイは嫌な予感を覚えて言葉を止めた。
そろそろ展開を進めていきたいところなんですが……; 不安でございます。色々と。 本編も小休止したほうが良いのかもしれませんねぇ……。 平成18年7月9日UP 八十一話に戻る 八十三話に進む |