第七十八話 それでも事件は起こるのです。 フェレの城のすぐ近くの平原で、一同はバスから降りた。 どうやら、本来その世界で使われるはずのない乗り物のため、あまりこの世界の人に見られては良くないらしい。 城が見える位置で降ろされたあとは、全員が歩きのようだった。 「うっわ、懐かしいなぁ……。結構帰ってなかったような気がするしな」 ロイが呟くように言ったとなりでは、リンクが帽子を風で飛ばされないように押さえていた。 「緑が豊かで、いい場所ですね。風が気持ちいいです」 ちなみに、バスから降りた直後ではあるが、その間ずっと窓を開けていたためそれほど体調が悪くはなっていないらしい。 「ねーねー、あそこがロイのお城!?」 「正確にはロイの父君が治めている城、だけどね」 元気いっぱいという様子で行く先を指しているカービィに、マルスも微笑を浮かべながら応える。 「ここがロイ君の故郷かぁ……。ここも乱闘に使えばいいのにね」 「そうよね。ロイ君のお友達、誰がいるかなー?」 とはアイクラ。相槌を打っておきながら、ナナはあまりポポの発言を聞いていない様子だった。 ピーチはゼルダとサムスの近くに寄って、どんな様子かしらねと何やら小声で話している。 「僕らも色々探検したいなー。ネスとかと一緒なら良いんだよね?」 というのはピカチュウであり、隣でピチューも頷いていた。 その様子を見ながら、ネスがにっこりと笑みを作る。 やがて歩いていくと、城門に人影があるのが見受けられた。 一同の先頭を歩いていたロイが、その薄緑の髪の人物に近づきながらふぅと深呼吸する。 「ウォルト!」 「えっ……あっ、ロイ様!」 ロイが声を掛けると、そこにいた青年はこちらに気づき、ぱぁっと表情を明るくさせた。 その表情のまま、ウォルトはこちらに駆け寄る。 「お久しぶりです! お待ちしていたんですよ!」 「待っていたって……来るのが分かっていたの?」 微妙なロイの口調の変化に目ざとく気づいたナナが、少し面白そうな顔をした。 「はい! シャニーさんが、ロイ様の来る時刻などの詳細の手紙を運んできてくれたんですよ」 「! シャニーが来てるの?」 いきなり出た名前が意外だったらしく、ロイは驚いた表情を隠さずに言った。 その背後では、その様子を見ていたナナやピーチがむふ、と裏のあるような笑顔を作る。 「はい。ソフィーヤさんやスーさんも、すでに来ていますよ!」 「ソフィーヤもスーも……。二人とも故郷からここまで、遠いはずなのに」 ロイとウォルトの会話を、『これも女の名前みたい』と聞き漏らさず名を覚えていくナナ。 その他の一同も、その二人の会話を何となしに聞いているようだった。 少し話をしたところで、ウォルトが視線をロイの後ろにいる屋敷の住人達に移す。 「そちらの皆様が、ロイ様と一緒に暮らしているという方々ですか?」 「あぁ、うん。少し見慣れない姿の人もいるだろうけど、皆悪い人じゃないから安心して」 そのロイの声を聞きながら、ウォルトが一同の様子を見る。マルスの頭の上にいるカービィが『はぁ〜い♪』と手を振っているのを見て、ウォルトは驚きで数秒動きを止めた。 (でも、流石にカービィは驚くよな……俺も最初はすげー驚いたし) 予想通りのウォルトの反応に、ロイは小さく苦笑を作る。ぽかんとしている相手を見ているロイに、今度は背後の少し高い位置から声が掛かった。 「ロイ? もしかすると、今故郷に着いたばかりという所かしら」 その声に、ロイは振り向く。そこにいたのは白馬、とそれに跨っている青緑色の長い髪を持った女性だった。 「セシリアさん!」 その女性がゆっくりと馬から降りてくるのを見ながら、ロイは駆け寄るように彼女へと近づく。 ロイの表情は、相手の名を呼んだときにぱぁっと輝いたようにナナには見えた。 そんな彼女の背後で、ピーチが呟くように言う。 「ロイ……まさか、年上好み?」 ピーチの呟きが聞こえたゼルダは、え、と表情を強張らせた。ロイにはその呟きは聞こえていないらしく、先ほどセシリアと呼んだ、美女と形容してもおかしくないその女性と笑顔で会話を続けている。 「なんか、すっごい仲が良さそうでしね……」 プリンのそれは、呟きではあるが小声ではなかったので、他の者達にも十分に聞こえていた。確かにね、と言うポポにリンクも頷く。 やがて話が一段落ついたところで、立ち話も何だし城に入ろう、とロイが歩みを進めた、時。 「ロイさまーーーーーーーー!!!」 そんな女ものの大声と共に、どたどたどたと何者かが走ってくる音が響いた。 謎の音に、ロイが驚く。その足音は屋敷の者達がいる位置の後ろのほうからロイへと一直線に向かってきていた。 途中、少女の身体が偶然マルスへとぶつかる。 「わっ」 「ロイさまっ!」 が、その短いオレンジ色の髪を持った少女は、マルスにぶつかったことすら気づいていないような様子で、そのままロイへと飛びついた。 「わぁっ!」 幸いロイよりも体格が小さい少女だったため倒れることはなかったが、彼はその衝撃の重さに少しふらつく。 だがそれにも相手は気づいていないようで、抱きついた体勢のまま少女は大声でこう言った。 「ロイさまっ、ララムに会いに来てくれたのね! ララムうれしいっ!」 「ちょっ、ララムさん……と、とりあえず降りて……」 耳元での大声に、つらそうな表情を浮かべながらロイは言う。 言われたとおりにララムが目の前に降り立ったので、ロイは小さく安堵のため息をついた。 「ララムさん、元気そうで安心したよ」 「そんなことないわ、ロイさまがいないとあたし淋しくって〜……。戦争のときみたいに、ずっとお側であたしを守って欲しかったの!」 最後の一言に、驚いたのは屋敷の女性陣だった。今までの様子を眺めていて、彼女はロイの好きな人ではないわね、と考えていたからである。 「まぁ、見るからに戦える人じゃなさそうだしね」 そうポポが言ったのを見て、あぁそうかとナナも納得した。その少女の姿は、戦をするために着るような鎧など一切なく、風になびくためにあるような踊り子の服だったのである。 「でもロイさまがあたしに会いにきてくれたから、ララムはもう元気百倍! あとであたしのとっておきの踊り見せてあげるから、楽しみにしててね♪」 「あ、うん……」 「あ、あと、ララムのスペシャルスタミナ弁当も――」 「え゛っ」 その単語が出た途端、ロイの顔から表情と血の気が引いた。 「作ってこようと思ったんだけど、時間が足りなくって作れなかったの。だから今度は絶対に作ってくるから、絶対に食べてね♪」 「あ、う、うん……」 心なしか安心しているような表情で、残念そうな声を出してロイは応える。屋敷の者の大半はその意味が分からないような表情を浮かべていた。 「何? どうかしたの?」 と質問したのはゼルダだった。ロイはそちらを向いて、ぎこちなく笑みを作って言う。 「まぁ、一言で説明するなら……料理の腕、マルス並」 その一言で、本当に屋敷の住人達は理解できたようだった。 そのまま偶然マルスと目が合うと、相手は困り切ったような表情をしている。 「ん? マルス、どうした――」 「ロイ、ごめん」 突然謝りだしたマルスに、ロイは理解できないというように首をかしげた。と同時に、マルスの姿にほんの少し違和感を感じて何かと思う。 ロイの知り合いであるウォルトやセシリア、ララムも、何か起こったのかと視線を集めていた。 「カービィが……いなくなってる」 マルスがさらりと言った言葉を、ロイは一瞬理解できなかった。 「多分さっきぶつかった時に、はぐれたんだと思うんだけど……彼が一人で行動していたら」 色々な意味でやばい。 発言の続きが理解できて、ロイはやっとその状態に気づいた。マルスの青い髪の上にあるはずのピンクの色がなくなっているのである。 「マジでか!?」 思わず口調を屋敷の時のものに戻しているロイに、セシリアやウォルトは驚いた。ララムは少しきょとんとしているが、それでも少し驚いてはいるらしい。 「多分この状態だったら、城の中か……? やばい、カービィ一人で出歩かせてたら誰に何されるか分かんねぇ……」 「本当にごめん、ロイ」 「謝罪は後だ、とにかく探さないと!」 そう言い、ロイは城の中へと駆け出した。ハッと気づいて、ナナも後を追う。 「ロイ君、私も手伝うよ!」 そのナナの真意にロイが気づくことは、残念ながらなかった。 そんなわけで、FE封印のキャラを数人出してみました。 そろそろスマブラ新作の情報が出てきたので、これからどうなるかは分かりませんが。 とりあえず、ぼちぼち書き続けては行こうと思ってますー(何。 平成18年5月14日UP 七十七話に戻る 七十九話に進む |