第七十七話 準備は万端れっつごー♪ 「はいはい、それじゃあフェレに行くご一行様集合〜♪」 昼食後、ナナが大きく手を振りながらそう言うと、該当する人物はわらわらとすぐに集まってきた。 が、肝心の行き先の領主の息子たる人物は、そんな様子には全く頭が回っていないようである。 というのも、ロイは他所を向いて頭に手を当て、俯きがちに何かをブツブツと呟いていたのだ。 「ロイさん? どうしたんですか?」 リンクの声でやっとその様子に気づいたらしい、ロイはそちらを見てから『はぁ』とため息をついた。 「今の今まですっかり忘れてたんだよな……」 その顔はまさしく、どうして忘れていたんだろうと自問自答したいと思うほど強張った顔である。 「? 何がですか?」 その内容が分からないリンクが尋ねると、ロイは『覚えてるわけねぇよなぁ』と小さくため息をついた。 「俺、……あっちにいる頃はずっと『僕』だったの、知らねぇ?」 「…………あ、そういえば」 確か来た頃はそうだったような、というリンクにロイが頷いて肯定する。 「戻ってから『俺』なんて言ったら、え? って顔をされると思うんだよな……」 「あれー? どうしたのー?」 会話に唐突に入ってきたのは、ピンク色の球体。カービィはリンクの肩にひょいと乗りながらロイのほうを向いてそう尋ねた。 丁度いいとばかりに、ロイはカービィに視線を移す。 「なぁカービィ。今俺がマルスみたいな口調で話し始めたら、どう思う?」 「え? ロイがマルスみたいな? えー、似合わなくて面白ーい♪」 けなしているのか褒めているのか分からないような様子のカービィに、ロイは小さくため息をついた。 そして、苦笑しながらその様子を見ていたリンクへと、また視線を戻す。 「実際、随分こっちに慣れちまったから、集中してないとすぐ出そうなんだよな。やっぱり無理にでも直すしかないか……」 後半はリンクへと話しかける言葉ではなく、一人言のように呟く。そのまま自分一人で考えるような状態になったところに、ピーチがやってきた。 会話を聞いていたらしく、さり気なくからかうように口を挟む。 「もしかして、言葉遣いが乱れてたら好きな人にも嫌われちゃうのかしら?」 「いや、あいつは平気だろうけど、父上とリリーナがなぁ……」 何気なく答えたロイに、リンクもピーチも、近くにいたため聞こえていたゼルダやナナも驚いたようにぽかんとした。 ピーチもナナも、そういうことに素直に答えるはずがないと思っていたからである。 その表情を見て、ロイは今自分が口走ったことがどういうことかを理解した。 「なっ、って、あっ!? な、何でもねぇってか何考えてんだよ!?」 急に慌てだしたロイを、カービィは不思議そうに見る。少し離れたところからその様子を眺めていたマルスは、さり気なくナナに近づいて小声でこう聞いた。 「また何か企んでいるのかい?」 小さく苦笑しながら尋ねてくるマルスに、ナナは言葉を返さず、親指を立てて相手のほうへと向けた。 楽しくて仕方がないとでも言うようなナナの表情に、マルスはやれやれと息を吐く。 「あんまり怒らせないようにね」 あちらではカービィがロイに『リリーナってだーれ』と尋ねているところだった。 移動は、どこでどう調達したのか分からないが、バスだった。 裏でネスやナナが手を引いたらしいが、何やらフェレの城の近くまで送ってくれるという。 それに乗り込み発進した後、ロイは立ち上がって、乗っている他のメンバーに大声でこう言った。 「おーい、みんな! 俺は着いたら『俺』じゃなくて『僕』って言い方するだろうけど、気にすんなよ!」 「なんででしかー?」 ネスが小さく笑っている隣で、すぐに返事というか質問を返してきたのはプリンだった。 その質問を聞いて、プリンの前の席に座っていたナナが身を乗り出して後ろを向く。 「忘れたの? ロイ君、昔はマルスみたいな話し方だったじゃん!」 「そうでし? うーん、覚えてないでし……」 「まぁ僕って言っていたのも少しだけだもの。忘れたって仕方がないでしょ」 繋げたのは、プリンの一つ後ろであり最後尾でもある席に座っている、ピーチだった。 その膝の上にはピチューの姿がある。だがピチューの視線は横に座っている兄のほうにあった。 正確には、同じ最後尾の席のマルスの膝の上にいるカービィと、ピカチュウが何やら喋っている、という所を眺めているのである。 そこの席のポケモンたちが目に入って、ロイはもう一度大声で言った。 「これから行くところではポケモンは珍しいから、出来るだけ皆と離れるなよー」 「えー?」 との声を出したのはピカチュウである。プリンも少しつまらなそうに頬をぷくっと膨らませていた。 「でも、誰かと一緒なら出歩いても構わないよね?」 と言うのは当然のようにナナの隣の席にいるポポ。ロイが『まぁその位はな』と答えると、プリンやピチューもほっと安心したような顔を見せた。 他に自分に声を掛ける者がいなかったので、ロイはひと息ついて着席する。 「それにしても、何で皆してフェレに行きたがるんだろうなぁ……」 「君の故郷が気になるんじゃないの」 呟くように言った言葉に隣の人物が返事をしてきたので、驚きを含んだ顔でロイは横を見た。 サムスはなんてことはないというような普通の表情をしている。その様子にロイは少し安心して、ふぅ、とひと息ついた。 「故郷って言うより、なーんか妙なこと考えてるんだろうけどな」 「まぁ、そのおかげで君も会いたい人に会えるんでしょ」 「そのおかげ……なぁ。ま、そういうことにしとくか」 諦めたような様子を見せるロイに、その前の列の席にいるゼルダが小さく笑う。 ゼルダの隣には相変わらず車が苦手で疲れた表情をしているリンクがいた。 ちなみに窓は開けてある。 「ロイは、そこの大陸で色々な所を回ったって話してたわよね。お友達も多いの?」 ゼルダが聞いてきた事に、ロイはうーんと少し考え始めた。 「多い……って実感はないけど、行く先々でお世話になった人はいるからなぁ。多いのかもな」 「それは……女の人も?」 「え?」 ゼルダがそんなことを聞いてくるとは思わなかったので、ロイは少し目を見開いた。 その反応に、聞いてはいけないことだったのかしらとゼルダも少し慌てだす。 「あっ、特に意味はないんだけど……。ちょっと気になっちゃって」 答えにくいならいいのよ、と遠慮がちに言うゼルダを見て、ロイは小さく笑った。 「女の人なら特別仲良くするなんて事はねぇから、半々だろ。なんだよ、ゼルダも何か企んでたのか?」 「えっ、別に――」 「友達になれそうな人でもいるかと思ったんじゃない?」 ゼルダの言葉を遮るようにサムスが声を出したので、二人とも視線がそちらに移動した。 それに対してロイが発言しようとしたときに、だがまた別の人物の声が被る。 「ねーロイ君! 城にロイ君の友達何人くらい集まってるかなー? 誰が来てると思う?」 真後ろからナナが身を乗り出して聞いてきたので、ロイは身体を少し前にずらして背後を見た。 「何人くらいも何も、誰が来てるかなんてさっぱり予想つかねーよ。フェレに来るだけでも数日掛かるような人だっているんだからな」 ふーんとつまらなそうな顔をするナナ。その後ろのほうではネスが声を出さずに小さく笑っていたが、ナナもロイも気づかなかった。 「これはどうなるか分からないってことね〜……」 そう呟きながら、ナナは乗り出していた体勢を元に戻す。その発言にロイが『ん?』と反応していたが、ナナはニッコリ笑うだけで何も答えなかった。 これだけ人数を減らさせてもらっても、描写って大変ですね……;; 運転手は存在自体省かせてもらってますが(爆)、それでも13人。 この話でフェレに着かせる予定だったんですが、予想外に長くなっちゃいました(汗。 平成18年4月23日UP 七十六話に戻る 七十八話に進む |