本編 第七十六話<小説:スマブラTOP
第七十六話
乙女心は無尽蔵。
「ナナしゃん、ネスしゃんのことはどうなったんでちゅか?」
ピチューが発した問いに、だがナナは『んー』とあまり興味がないように応えた。
「ネス君は結局、生まれっていうかそんな感じになっちゃったからねぇ。分かんないって思ったら、やる気抜けちゃってさー」
そう言いながら苦笑いするナナを、ピチューは少し困ったような、呆れたような顔をして見た。
彼女のそれは一見ただの苦笑いなのだが、その実は『別のことに興味が移ったから興味が無くなった』というものである。
ピチューの目は、気が変わるのが早すぎるのではないかという意味である。
それを知ってか知らずか、ナナは気楽な様子でピチューにこう話しかけていた。
「だって、ロイ君に好きな人がいるって話なのよ? オンナのコの心として、気になっちゃうのは当然じゃないの♪」
「ピチューはオスでちゅ……」
相手が呆れたような溜息をついても、ナナの調子に変化はない。
そのピチューとナナとの間の辺りには、こちらも楽しそうにしている薄ピンクのポケモンの姿があった。
「ロイしゃんの好きな人……。うーん、気になるでし……」
こちらはナナほどはっきりと表してはいないが、十分に興味を持っているという様子のプリン。
プリンのほぼ向かい側に座っているカービィは、性別の事を全く意識せずに『ロイの好きな人』という人物に興味を持っているらしかった。
「ピカ兄ちゃんは、どう思いまちゅ?」
そう言いながら、ピチューは自分の右隣に座っているピカチュウに顔を向ける。ピカチュウはピチューとプリン・ナナの微妙に違う様子を見て、小さく首をかしげながら小声で答えた。
「ロイの好きな人ってのが誰なのかは気になるけど、あんなに面白そうにしてる意味がよく分からないんだよね……」
その意見にはピチューも賛成のようだった。
「『オンナのコの心』って、よく分からないでちゅ……」







それから数日したとある日。
朝食を終え、これからどうしようかなと考えていたロイの元へ、笑顔のナナがやってきた。
「ロイ君、おはよー!」
それに対して相手は普通に返事をしようとそちらを向く。が、そのあからさま過ぎる笑顔を見ると、ロイは嫌な予感を覚えた。
「ナナ……なんか妙に楽しそうだな?」
「えー、そう? まぁね〜」
悪びれた様子もなく、ナナはあっさりとそう口にする。ロイは一体何を企んでいるんだ、と思ったが、それを質問する前に相手のほうから言い出していた。
「思ったんだけどさ、私達って乱闘では色々な所に行くけど、ロイ君とかの故郷って行ったことないよねー?」
「ん? あぁ、まぁ……」
『まぁな』と答えようとして、ロイは冷たい汗が流れていくのを感じた。
「だからさ、ロイ君の故郷のところ、招待してよ! 丁度今日は乱闘の予定もないし」
予想通りに言葉を繋げたナナに、ロイは呆れと同時に溜息を漏らした。それから、変わらずにこにこしているナナに真面目そうな表情を作って言う。
「あのな、確かに俺んところには来たことはないけど、唐突に戻ったら城の皆が困るだろ? もてなしも何も出来たもんじゃねぇよ」
だからさっさと諦めろ、と言いたげなロイに対し、だが返事をしたのは別の人物だった。
「あ、それなら大丈夫だよ」
横から唐突に聞こえた声に、ロイとナナの視線が移る。その先にいたのは、いつも通りの笑顔を見せている、赤い野球帽の少年だった。
「近々ロイ君が友人を連れて城に戻るから、準備があるなら用意しておいてって僕が連絡しておいたから」
「――は?」
意外な言葉に、ロイの表情が固まる。ナナはそんなネスにウィンクをして見せていた。
「わざわざ、城に? ……っつーかいつの間に?」
「城だけじゃないよ、全国にいるロイ君の友人にも、会いたい人はフェレに来てって。送ったのは随分前、ナナちゃんがロイ君の城に行きたいって言った時」
その言葉で、ロイが睨むようにナナを見る。その目にナナは一瞬ひるんだが、ネスがロイに声を掛けたことでまた視線はそちらに移った。
「今戻れば、色んな人に会えるはずだよ。もちろん彼女もね」
後の一言に、ロイの表情がぎこちなくなった。だがそれは怒っているのではなく、どこか照れているようにも見える。
ロイの様子が穏やかになったのを見計らって、ナナがどこからか紙を取り出して見せた。
「でね、ロイ君の故郷に行ってみたい人ってアンケートを取ったらね、結構人がいたのよー♪」
そう言いながら見せてくる紙を、ロイは手にとって見る。そこには屋敷の住人のうち数人の名前が書いてあった。
「ナナ、ポポ、プリン、リンク、サムス、マルス、カービィ、ネス、ピカチュウ、ピチュー、……ピーチやゼルダまで」
言いながら表情を歪めていくロイを見ながら、ナナはまたにっこりと笑顔を作っていた。
「あ、ちなみに皆にもう約束しちゃったから、ここで断られるとすっごい困るのよねー」
いつの間に、と思うのと同時に、本人に内緒でそんな約束取り付けるなよ、とロイは思った。
いまだ渋っている様子のロイに対し、横からネスがさらっと言う。
「久々に会えるんだから。たまには良いんじゃない?」
その一言を聞いて、ロイは諦めたようなため息をついてからネスのいるほうに顔を動かした。
「お前さ、俺が折れるって分かってて言ってんだろ……?」
「まぁ、超能力者だし」
くすっと小さく笑うネスの近くで、ナナがよっしゃーとガッツポーズを作っていた。




「ロイさん、本当に大丈夫なんですか?」
出かけるのは昼食後、という事で昼までは自由になったロイの元に、リンクが来て尋ねた。
「ん、何が?」
本当に何の事か分からないらしいロイに、リンクは困ったような苦笑いを作りながら言う。
「ロイさんの故郷に行くという話です。僕に言ってきたとき、ナナさんはまだ本人に了解を取っていないと言っていたので」
あぁ、と思うのと同時に、リンクって名前も書いてあったなとロイは思い出した。
「ちなみに、お前がその話聞いたのはいつ?」
「えーと、一昨日ですけど。……どうかしたんですか?」
『一昨日』と聞いた瞬間、ロイの表情がムッとしたのに気づき、リンクはそう聞いてきた。
「……俺がその話聞いたの、今朝だぜ」
「え? ……今朝!?」
意外だと言わんばかりに、目を見開いてリンクが言う。ロイが頷くと、相手は驚いた表情を直さないまま続けてこう言った。
「本人には先に聞いたほうがいいですよってナナさんに言ったら、これからすぐ聞くところだって言っていたので……。もうとっくに了承を得ていたのだと思っていましたよ」
未だ驚いているリンクに対し、ロイは思ったことを正直に質問する。
「じゃあ何で一昨日とか、昨日はそう聞いてこなかったんだよ?」
「あぁ。聞こうと思っていたんですけど、すっかり忘れてしまっていて」
あっさりとそう言いきるリンクに、ロイは呆れた溜息をついた。
リンクは抜けてるんだよな、そういうとこ。
はぁ、ともう一度溜息をついたところで、リンクがロイの背後に人を見つけた。
「あ、マルスさん!」
その声で、ロイも後ろを振り返る。そこを歩いていたのは、普段の頭の上ではなく腕の中に眠っているカービィを収めている、マルスだった。
「やあ、ロイ。その様子じゃもうネタばらししたみたいだね」
マルスの発言に、ロイはむっとした顔を作る。その表情の変化を見て、マルスは小さく笑った。
「マルスはリンクと違って、間違いなく、故意に、隠してただろ」
『間違いなく』と『故意に』を強調しながら言うロイに、マルスは苦笑を見せた。
「カービィに、どうしても内緒にしてほしいって頼まれてね。ちゃんと相手方に迷惑を掛けないで済むのならっていう約束を取り付けたから、他の心配は要らないはずだよ」
それはありがたいなと思いながら、だがロイはふくれっ面を直さなかった。
「にしても、酷いよなー。ずっと隠してるんだもんなぁ」
「あはは、ごめんごめん」
苦笑と共に言ったマルスの言葉に、リンクも小さく笑った。







「で、今日会えるロイの友達の中に、ロイの本命がいるってのは本当なんでしょうね?」
別の場所では女性たちが数人集まっていた。
「うん、ネス君が言うんだから間違いないよ! 誰かは教えてくれなかったけどさ」
「でも、ロイの好きな人ねぇ……。誰が最初に当てるか、競走でもしてみる?」
サムスが何気なく言ったその言葉に、他の数人の目が光った。
「本人に内緒でそんなことをしたら、悪いわよ……」
というのはゼルダ。だがその表情は発言とは裏腹に、少し興味がありそうな顔である。
「ゼルダしゃんは気にならないでしか?」
「そ、そんなこと無いけど……」
「それならゼルダも共犯よ! どうせなら精一杯楽しんじゃお!」
ナナの発言に、ゼルダは少し遠慮がちに、他は本当に楽しそうに返事をした。



やっぱり登場キャラを偏らせた方が書きやすいみたいです。
そんなわけで、しばらく今回ので名前が出たキャラしか出なそうです……すみません;
ちなみにタイトルの『無尽蔵』とは、無限にあるように見えること、だそうです(辞書いわく)。

平成18年4月9日UP


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最終更新:17:54 2006/07/09




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