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第十話
緑・確認を
光陰矢のごとし。
時の流れは本当に速いもので、もう周瑜が我らの国に訪問する日となってしまった。
そう言った他人との対話は司馬懿どのの得意とするところではないので、周瑜を出迎えるのは私と陸遜どのの二人となる。
どのは……険悪な雰囲気になるかもしれないからと、席を外してもらった。
本当は、周瑜に何か妙な事を吹き込まれてしまってはまずいからなのだが。
奴も、漢中を一人で軍としてまとめ上げるほどの力を持っている。予備知識のないどのでは、いいように利用されてしまうかもしれない。
……まぁ、司馬懿どのも似たような考え方をしているのかもしれない、とも言えなくはないのだが……。
「姜維どの、はどこにいるのですか?」
背後から聞こえた声に、私は振り返った。陸遜どのは恐らくどのの部屋へと行っていたのだろう。
どのなら城下町を回ってみると言っていましたよ。土地勘も大体分かってきたので好きなところに行ってみたい、と」
「そうですか……」
陸遜どのは口元に右手を当て、考える素振りをした。城下町とはいえ、護衛もなしにどのが出歩いているとなれば心配なのだろう。
手合わせの時の動きは良かったと言っても、どのは刀を持ち歩かない。いざというとき、盾代わりにすらならないのだ。
かといって、部屋に一人でこもっていろなどと言うのは彼女には退屈なのだろう。
……子供のようだと思えてしまうのは、この土地の未知なるものに対する彼女の好奇心のせいだろうか。
「ですが、まずは周瑜ですね、陸遜どの」
「……ええ、そうですね。姜維どの、出迎えてあげて下さい」
「はい」
周瑜が国境近くまでやってきたとの知らせが入ったとき、陸遜どのの目には強い光が宿っていた。



「ようこそおいで下さいました」
陸遜どのの笑顔の第一声に、周瑜は怒りを隠しもしなかった。
「前置きは不要。少女の姿がないようだが、これはどういうことだ?」
周瑜はどのを貰いにくるという名目で来ている。迎えた先にその姿が無いとなれば、それが何を意味するかは誰にも分かることだ。
「貴方の出した提示案は呑めません。それが私からの返答です」
「説明をしてもらおうか。私は当然の権利を主張しているだけなのだが?」
元より、陸遜どのも、おそらく周瑜も、話し合いで解決するとは思っていない。話し合うと言うよりは、戦の前の最終決断を下すという感じだ。
私が調査した未確認物体の落下地点は、漢中とのほぼ国境近くにある。
空高くから何かが落下すればその地点には強い衝撃がかかる。その衝撃により、漢中の領土内でも被害があったというのだ。
落下地点にて私がどのを保護したことから、この損害の責任はこちらの国にあるから弁償しろというのが、周瑜の主張だ。もしくは、弁償の代わりにその少女の身柄をよこせとも言う。
そして陸遜どのは、少女を保護したことと謎の落下物には関連性がないから、その要求は受けられないという返答。
その説明を今終えると、周瑜はやはりというか、憤慨だといった様子を見せた。
そして、視線を陸遜どのから私に移す。
「そちらの将軍が落下地点からその少女を拾ったということを、我が国の者が目撃しているのだぞ。関連性がないなどと、どうして言えようか」
周瑜の視点が私からまた陸遜どのへ戻ったときに、次の陸遜どのの声が聞こえた。
「彼女にもいくらか質問をしましたが、彼女は正真正銘、何の変哲もないただの少女です。そんな少女が空から降ってきて、あのような大穴を開けたなど、誰が信じられましょうか?」
「だが、他に落下物らしきものは一切なかったというのであろう!?」
「調査は早急に行いましたが、それでも少々の時間を要しました。その間に何者かがそれについての重要物を持ち去ったというのは、十分に考えられます」
周瑜はしばらく陸遜どのを睨んでいたが、ふと何かを思い出したかのように冷静な顔つきになった。
「それでは、君はこちらの弁償をする気は毛頭ないというのだな」
「この現象は天災のようなものだと私は考えています。こちらに貴方の領土の弁償をするほどの責任はありません」
周瑜は、呆れたようにため息をついた。
「残念だな。君はもっと賢い人物だと思っていたのだが……私の思い込みだったようだ」
「本当に残念ですね。またお会いしましょうか。……今度は、戦場で」
落ち着いた声色で陸遜どのが言うと、周瑜は振り返って出口の方へと歩き出した。それを見て、陸遜どのが私のほうを向く。
「姜維どの、お送りし――」
「結構だ。一人で帰れる」
陸遜どのの声を遮り、周瑜は強い声でそう言う。その後、私たちが何かを言う前に周瑜は去っていった。
足音が聞こえなくなった後、陸遜どのは一つため息をつく。
が聞いたら、どのような反応をするのでしょうかね」
困ったような表情で言う陸遜どのに、私は苦い笑みを作った。
「喜ばれない事だけは、確かでしょうね」
「ええ……」





小さな子猫を抱いてどのがやってきたのは、周瑜が去ってから充分に時間が経った後だった。
元気よく、だが慌てたように駆け込んでくるどのに、陸遜どのは小さく笑う。
「ねぇ陸遜、傷薬ない!? この子、木の枝でけがしちゃったんだけど……」
そう言いながら、どのは陸遜どのに近寄った。なるほど、確かに猫の左の後ろ足が少し赤くなっている。
陸遜どのは苦笑を見せた。
「お優しいのですね、は。しかしこれなら、包帯を巻いて無理させないようにしておけば平気ですよ」
『薬も貴重ですからね』と私が続けると、どのは残念そうに眉をひそめながら了解する。
看病するために陸遜どのとどのは別室へと歩き出した。私もその後に続く。
おや? どのの背中についているのは……葉っぱ?
……まさか。
どのには、おけがはありませんか?」
私がそう言うと、どのは足を止めずに振り向いた。
「ん、あたしは平気だよ。木から落ちはしたけど、下に人がいたから助かったし」
「え!?」
さすがにそんな答えは予想していなかったのだが……。
「おてんばですね、は。お礼は言いましたか?」
陸遜どのはおかしそうに笑っている。どのは『もちろん』と返してから、表情を普通に戻した。
「ところでさ、周瑜との話し合いは終わったの?」
唐突な話題変換に、私と同じように陸遜どのも口を閉じる。
さほど間をおかず医務室に着くと、陸遜どのは慣れた手つきで包帯を取り出した。
「ええ、終わりました。……恐らく、近日中には我が国へ攻め込んでくるでしょう。足を見せてください」
どのに向き直りながら、陸遜どのは真剣な口調で言う。猫の足が手前に来るような体勢になると、陸遜どのはその独特の形に合わせながら無理の無いよう包帯を巻いていった。
「そっか……。まぁ、そうだよね。うん」
包帯が巻かれてゆく猫の足を見ながら、どのは少し元気のない声でそう言う。やはり、人が死ぬのが嫌なのだろう。
敵国の兵であるからと、罪のない者達を殺すのは、私も少し気が引ける。兵士となった子が死ねば、その母親は嘆き悲しんでしまうだろう。
「これでいいはずです。立たせてみて下さい」
「うん、わかった」
どのは猫をゆっくり床に置いた。一本だけ毛色と揃わない白い包帯を巻かれた足が、ふるふると少し震えているのが見える。
お二人もその様子を眺めていたが、やがて猫は勝手を理解すると普通と変わらぬように歩くようになった。
そしてそのまま、ひょいと部屋の外へと駆け出す。
「あっ……行っちゃった」
言葉の内容とは裏腹に、どのはあまり気にしていないようだった。
「猫は気まぐれですからね」
「うん……またけがしなければいいけど、と思ってさ」
「そうですね……」
言いながら、陸遜どのは包帯を棚に戻した。



数話書いてみて、今のところ黒が一番書きやすく、赤が一番書きにくいのが分かりました。
青と緑はその時々によって違うみたいです。可もなく不可もなく、ですね。
黒が楽なのは、読者と同じくらいの知識しかないからですかね?(笑

平成18年1月28日UP


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最終更新:12:03 2006/06/27




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