第八話 黒・本気だよ 戦を避ける事は不可能だ、って事はとりあえず理解した。 悲しいけど、話を聞くかぎり周瑜は本気らしいし。 じゃあ、やっぱりこれからはエンパの通りにゲームが始まるって事で……。 それじゃあ、あたしのするべき事は? 「周瑜……漢中からここの天水に侵攻してくるんだよね。周瑜って他に領土持ってるの?」 あたしの質問が意外だったのか、司馬懿が一瞬ぽかんとした顔をした。って、どーいう意味よそれは。 「どのは、戦がお嫌いなのではないのですか?」 姜維が不思議そうな顔で聞いてくる。そんなに変な事かな。 「もちろん、好きじゃないけど。でも、やるからには勝たなくちゃ。今は天水以外に領土は無いんだし、ここで負けたらゲームオーバーだしね」 「「げーむおーばー?」」 陸遜と姜維の声が重なった。おっと、ヤバイヤバイ。 「えっと、物語が終わっちゃうこと。どうせ乱世なんだもん、天下取るくらい狙わないとね」 ……。 あれ、無言? 「女の分際で、そのような事を口走る奴がいるとはな」 そう言う司馬懿は先ほどと違ってどこか楽しそうな顔をしている。 「驚きましたね。まるで当たり前の事のように……」 「全くですね……私も、このような意見を言う女性は初めてです」 陸遜も姜維も、とても驚いている顔だった。 あ、あたし、そんなに変なこと言っちゃったかな? 「周瑜の領土は漢中のみだ。だが、それを知って何になる?」 司馬懿は他二人と違って至極冷静にしている。そっか、漢中のみか……。 「んじゃ、周瑜自身が侵攻してくるわけか。じゃあ、配下に強い武将は誰がいる?」 「注意するほどの奴はおらぬな……強いて上げるなら、劉表、糜芳あたりか」 劉表、糜芳……両方一般ね。 「兵力は?」 「五・六千、我が国も同程度だ。傍目にはどちらが勝つか分からぬであろうな」 「傍目にはって?」 「私が負けるはずあるまい」 そう言って、司馬懿はフッと笑った。おー、自信満々だねぇ。 「過信はいけませんよ、司馬懿どの」 ふとそう聞こえて顔の向きを変えると、陸遜はいつもの笑顔をしている。 「貴様に言われる筋合いはないわ」 「どちらもどちらですよ」 その言葉で司馬懿と陸遜の視線が姜維に集まった。ぅわ、姜維がツッコむとは……。 「姜維、貴様はいつも一言多いぞ」 「そうですよ、姜維どの」 「私が止めなければ一体誰が止めるというのですか」 姜維は平然と返している。それにしても、仲良いなぁ……。 「それとも、どのに止めてもらいますか?」 は!? 「あ、それは良いかもしれませんね。姜維どのより言い方が柔らかそうです」 「こんな小娘に言われるようなことなど持ち合わせておらぬわ」 ん!? なんだってぇ? カチンと来たから、あたしは司馬懿にビシィ! と人差し指を向けてやった。 「言っとくけどね、あたしだって17なんだからね!!」 「十分に小娘ではないか」 「だったら陸遜はどーなるのよ!? 陸遜だって17でしょ!?」 言いながらあたしは陸遜のほうを向く。……けど、その表情が驚きで作られているのを見てあたしはふっと気がついた。 「確かに、私は十七ですが……どうやって、それを知ったのですか?」 あー……。 やってしまった……。 いや、姜維の話から推測……は無理だよなぁ。何年とか聞いてないし。 超能力で、いや超能力を信じられる方がよっぽど困るし……。 えと、どうし―― ぎゅるるるくぅ〜…… 「「…………」」 ……奇声を発したあたしの腹を、陸遜と姜維が呆然と見ていた。 っていうか……。 「貴様は腹も奇妙な構造のようだな」 「う、うるさいっつの! 乙女に対してそんなこと言わないでよ! 傷つくでしょ!」 そう必死で弁解しても、どうせあたしの顔は真っ赤なんだろうなぁ……顔が熱いもん。 「昼食にしましょうか」 姜維が苦笑を浮かべながらそう言ってきた。あはは、ありがと姜維……。 実はもうそんな時間だったんだなぁ。 さっき運動をしてたせいか、元気よくあたしの腹は鳴ってくれましたとさ。 嬉しくないよ……すっごく。 姜維と司馬懿が先に歩いてったこの場で、陸遜が不意にあたしに近付いてきた。 そして耳元で小声で呟く。 「健康の証拠ですから、あまりお気になさらずに。私はそんなどのも可愛いと思いますよ」 !!??!? 「りっ、陸……」 「ほら、。早くしないとあの二人に置いていかれますよ」 あたしの言葉を無視してそう言って、陸遜は当たり前のようにあたしの手を引いた。 誰のせいで顔赤くなったと思ってんの……。もぉ! 「どの」 昼食後のふとした空き時間、陸遜が控えめな声であたしを呼んだ。陸遜は、二人で話すときにはあたしの事をそう呼ぶ。 多分、人前では夫婦だから呼び捨てじゃないと不自然だからなんだと思うけど。 そのちょっとした気遣いが、あたしはちょっと嬉しい。 「何? 陸遜」 あたしが返すと、陸遜は不意に苦笑を見せた。 「言いたくない、又は言えないのなら無理にとは言いませんが、少し気になることがあって」 「ん、何? 言ってみてよ」 陸遜は、一呼吸おいて言った。 「どのは……この世界の“人”を、ご存知なのですか?」 「……人?」 人ってどゆ意味? まぁ、そりゃ人が住んでるって事は分かってるけどさー。 「姜維どのからどのように聞いたのかは知りませんが、どのは『周瑜』という名をまるで見知った知人のような口ぶりで言っていました。司馬懿どのから劉表や糜芳の名を聞いた時も、納得していたように見えましたし」 あ゛っ!? ……やばい、どうしよう……。 「何より、言っていないはずの私の年齢をどのは言い当てましたから」 あー、そうだよねぇ……気にするのは当たり前よねぇ……。 はぁ。仕方ないか。 「あ、言いたくないのであれば――」 「ううん、別にいいよ。ただ、多分陸遜とかから見れば凄い内容だけど、あたしの事を変な人だとか、天女だとか、そういう風に思うのはやめてね」 「勿論です。どうであれ、どのは私の知っているどのですから」 そう言って、陸遜は優しく微笑んだ。そう言われると、すっごく安心できるなぁ……。 って、言わなくちゃね。すー、はー。 「あたしがいた世界にね、この世界と似た世界のことを知ることができるものがあったの。似てるっていうか同じなんだけど違う世界、みたいな」 「どういうことですか?」 陸遜は興味津々、といった様子であたしを見た。 「んと、地名も人名も同じなんだけど組み合わせが違うっていうか……。例えば、陸遜は建業の辺りに住んでて、江東一帯を治めてる人に仕えてたりとか」 んー、説明って難しい……。誰かあたしに国語力プリーズ。 「私が、建業に?」 やっぱり陸遜は不思議そうな顔だった。まぁ、当然だよね。 「司馬懿は洛陽の辺りにいて、陸遜と敵対してる勢力に仕えてるの」 「司馬懿どのが!? では、姜維どのは……」 「あー、姜維も敵勢力。三つの国の戦いになってて、三人みんなバラバラなんだ」 内容が内容だからか、陸遜はポカンとした様子だった。やっぱり、この陸遜にとって司馬懿や姜維が敵ってのは辛いよね……。 「でも、この世界では今敵対している周瑜が、その世界では陸遜の仲間だったりとか……キャラ自体は同じなんだけど、住んでる所と国が違うって感じかな」 「『きゃら』とは?」 え゛!? あ、使ってた!? 「あ、ごめん、この世界の人のこと! 人自身は同じなんだけど国が違うっていう世界をあたしは沢山見てきたのよ」 「なるほど……。それで、“人”を知っていたのですね」 そう答えてから、何か陸遜は考える素振りをした。説明……としては、別におかしくないよね。 こっちからすれば、普段の無双が普通でエンパが仮想なんだけど、エンパの世界に入っちゃってるとすれば普通の三国志がパラレルになるわけだし。 ……エンパの世界かぁ。信じるしかないのは分かってるけど、やっぱり信じられないよねぇ。 しかもこの人選、どう考えたってあたしがやろうとしてた記録のものだし。あの記録でもやっぱり周瑜は漢中にいたのかなぁ。 んー、駄目だ、思い出せない……。たしか、初めから三つ以上の地域を持ってる人はいなかったはず……だけど……。 自分のとこしか見てなかったからなぁ。……まぁいっか、ここで皆に聞けばいいし。 「――……わずに済んでいるのですけどね」 ん? 陸遜、何か言った? あたしが意識を陸遜に戻した時、彼は逆にいる司馬懿の方を向いていた。 使用武将が強いのは分かりますが、一般武将はどのくらいの強さなのかほとんど知らないんですよね。 まぁ、劉禅だとか何進だとか、弱いらしい奴は強さが『凡庸』だから分かりますが。 使用武将の扱いはとりあえずまともにしてるつもりですが、一般武将は悲惨なのもあるかもしれないので注意してくださいな。 平成17年10月29日UP 七話に戻る 九話に進む |