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第四話
隠れた世話人
学校の友人と別れて、ロイは現在の自宅であるマルスの家へと歩いてきた。
「ただいまー。……」
普段通りに何気なくそう言い、返事が無いのを不思議に思ってから、はっと彼はとある事を思い出す。
「そーいや、リンクも働きに行ったんだっけな……」
道理で静かなわけだ、と考えつつ、ロイは靴を脱いでそれを端に寄せた。
――つーか、玄関の扉カギ掛かってなかったぞ?
鞄を持ったまま障子を動かしながら、ロイは今朝の様子を思い出す。
居間へと移動してから、肩に掛けていたそれなりに重そうな鞄をテーブルの上に置いた。
「一番遅く出たのはマルスか。……帰ったらなんか言っとかねーとな」
ある意味で家主みたいなもんなのに、どうしてあいつが一番しっかりしてねぇかな、と思い、ロイは呆れを含んだため息をひとつついた。
何気なくテーブルのそばにあるイスに座り、周りを見渡す。
「……いっつもはリンクがいたから気づかなかったけど、けっこう広いよなこの家……」
これから何しようかな、と、ふと考え、こう思い至る。
「そういえば、しばらく掃除してなかったよなー。誰もいねえことだし、片付けっか」
実際はここより彼の部屋の方が相当に汚いのだが、そんな事はお構いなし。
さてと、と、彼は既に読み終えた新聞をたたみ始めた。




ゴミを入れる袋が一杯になったので、それの口を縛ってから新しい袋を取り出し。
次は台所のほうを片付けるか、と思った頃、ふと急に居間にあった電話が鳴り響いた。
ルルルルルル……
「ん?」
今は誰もいないので、その電話は当然ロイが取るしかない。
時計を見て午後の五時を少し回った頃なのを確認して、マルスに電話だったらなんて言おうかななどと考えながら彼はその電話を取った。
「もしもし」
『もしもし? あ、ロイ?』
心配は杞憂に終わった。その電話は、マルスへの電話ではなくマルスからの電話だったのだ。
「マルスか。どーしたんだ?」
『んと、今日友達のマリク達と一緒に外食することになったから、晩ご飯いらないってリンクに伝えといてくれないかな?』
ロイは、『……まぁ、マルスだしなぁ』と思った。
「マルス、忘れてるだろ。リンクは仕事行ってるぞ」
『え? ……あー、そういえば。リンクの仕事って今日からだっけ』
ちなみにリンクがサムスに仕事の紹介をされたのは昨日のことである。
サムスいわく『君に良い役があったんだけど人がいなくて困ってたのよ』との事だった。
『それじゃ、晩ご飯はロイが作るの?』
「ま、リンクが何時で帰ってくるか分かんねぇんだから、そーなるわな」
『そっか。とりあえず、さっきのこと宜しくね』
「ああ、分かったよ」
ガチャ、プー、プー、プー。
電話を置いてから、『つーことは今日はしばらく一人か』と考え、ロイは小さなため息を一つついた。


台所は、居間でもあり食堂でもある大きなテーブルとテレビが特徴なその部屋のとなりにある。
部屋の広さは居間の半分ほどしかなかったが、流し台やガス台・調理台に冷蔵庫や食器棚など、食事に必要なものを全て一まとめにしてその部屋に放り込んであったため、随分と窮屈に感じられた。
だがそのお陰というべきか、居間は広々としていて寝転がる事もできるほどである。
「あー、これ期限切れてやがる……。リンクの奴、面倒だからって後ろの方から取らなかったな」
冷蔵庫の奥の方にある生ものを引っ張り出して、ゴミ袋に放り込みながらロイはそう呟いた。
こんな発言をしてはいるものの、リンクが調理するときの様子はロイがこの家にやってくる前よりは十分にまともなほうだった。
マルスが一人で暮らしていた頃は、台所と居間をつなぐ扉は開けっ放し、ノラ犬やノラ猫が勝手に入ってくるようなものだったのである。
部屋の扉だけならまだしも、冷蔵庫の扉すらも開けっ放しになっていたりして、動物達が勝手に入って勝手に食べていなくても、温まって駄目になる食物がいくつもあった。
そんな以前のこの家の様子を思い出して、ロイは呆れ返る。
「……まぁ、マルスよりはマシか」
ちなみに、この家の二階にマルス・ロイ・リンクのそれぞれの部屋があるのだが、二階にある一番大きな部屋は動物用になっていたりする。
この家の裏口側に大きめの木があり、そこを伝って登ればどんな動物でも自由に部屋の中に入れるような作りになっていた。
ということはもちろん窓は開けっ放しなのだが、幸いというべきか泥棒に入られた事はないらしい。
もっとも、泥棒に何か盗まれた事にマルスが気付くかどうか不安なところではあるのだが。
「……ふぅ」
冷蔵庫の戸を閉め、流し台の下にある調味料入れの部分の戸を開けて、ふとロイは気づいた。
「濡れてる……?」
普通ならそんなに光るはずの無い流し台の下の部分が、キレイに電気の光を跳ね返していたのである。
醤油やら油やらの容器を外に出し、ロイは中をよく調べてみた。
どうやら、水道管の途中から水が漏れているらしい。
「あー……ったく、何流したんだよあいつら……。詰まってんじゃねぇか」
これは自分じゃどうも出来ないな、と考え、ロイはふととある人物を思い出す。
「頼むか」
そう呟き、ロイはゴミの袋を持ったまま居間へと続く扉を開けた。
袋をとりあえず邪魔にならなそうな場所に置き、電話の前に立って受話器を取る。
『えーと、あそこの番号は何番だっけな』と少し考えてから、彼は思い出した番号を押してみた。
プルルルルル……プルルルルル……ガチャ。
『はい、もしもし』
「もしもし。……ん、その声はルイージか? あ、俺。ロイ」
『あ、ロイ君かぁ。そうだよ、僕。兄さんは今ピーチ姫のところに行ってて』
「……またか」
『まぁねー』
そのルイージの声は呆れた様子だった。
ピーチ姫と呼ばれるその人物は、実際は姫ではなく市長の娘である。美人で上品であり誰にでも優しく、何よりそう呼ばれると本人が喜ぶ事から彼女は『姫』をつけて呼ばれるようになっていた。珍しいもの・奇妙なものに特に興味を持ちやすいことは、長所であり短所。
ちなみに、ゼルダの家も彼女の家並みに相当な金持ちである。
『ところで、どうしたの?』
「あぁ。流し台の水道管が詰まってるみてぇで……どうにか出来ねぇかな、と思ってさ」
『あー、そういうこと。分かったよ、それじゃあ今から行くね』
「ああ、宜しく頼む」
ガチャ、プー、プー。
電話を置いて、それじゃあ別の場所を続けるか、とロイはもう一度ゴミ袋に手を伸ばした。




電話をしてから二十分も経たないうちに、裏玄関からルイージはやってきた。
といっても特別早いわけではなく、単純に、マリオの家からこの家まで距離が近いのである。
「やぁ、ロイ君。早速だけど、台所?」
「ん、ああ。いつも悪ぃな」
「構わないよ、お得意様だしね」
『兄さんも色々と世話になってるみたいだし』と笑うルイージに、ロイも微笑を返した。
「じゃ、俺は裏のほうの物置整理してっから、終わったら教えてくれな」
「うん。……ところで、それ全部ゴミ?」
そう言いルイージが指差すのは、既に一杯になっているゴミ袋。
ロイが肯定して『掃除とかあんまやらねぇからな、この家の奴ら』と言うと、ルイージも肩を動かして冗談のように笑った。
「でもロイ君、自分の部屋の片付けもしなよー」
「余計なお世話だよっ」
そう言い、それぞれがその場所へと移動した。

のだが、それからあまり時間の経たないうちに。
ルルルルルルル……
先ほども利用していた電話がまた鳴り出し、ロイは面倒臭そうに一つため息をついた。
今度は何だよ、と思いつつ、まさかルイージに取らせるわけには行かないので自分が居間へ行きそれを取る。
ガチャ。
『もしもしィ?』
「もしもし。……マリオか?」
その相手はロイが言ったとおりの、赤帽子が特徴的な人物だった。
『あぁ、ロイかよ。マルスいねーのかァ?』
「『かよ』って何だよ、おい。いねぇよ、ダチと飯食ってくるって言ってた」
ロイの言い分をさり気なく無視し、マリオは続ける。
『なんでこうタイミング悪く!』
そして『マルスがいりゃ楽なのによォ』と名残惜しそうに繋げる相手に、ロイは呆れながら質問した。
「どーしたんだよ、急に?」
マリオとルイージ。それはこの大都市スマブラでも有名な双子の配管工である。
ただの配管工のはずがなぜ有名なのかと言うと、彼らマリオブラザーズのうち、兄のほう、マリオが市長の娘の彼氏という噂があるからだった。
『あのピーチ姫に気に入られているらしい』という噂から、双子だという事もあいまってか芸能人並みに有名になってしまったのである。
それと、理由はもう一つあった。
『いやァ、ルイージに留守頼んどいたはずなんだがいなくてよォ、ヨッシーが逃げ出したんだよ』
「はぁ? ……前後の文、繋がってねぇぞ」
『あいつにヨッシーも任せたのに、いつの間にか仕事行ってるうちに逃げ出したみてーなんだよ。ピーチ姫がヨッシーを見に来るって言うから家に戻ったのに』
ピーチがマリオの彼女という噂が立つ主な理由は、それにあった。
謎の恐竜、ヨッシーの様子を見るためによくピーチがマリオの家に寄るのである。
ちなみにそのヨッシーは、マリオが仕事で遠出をしていたときにたまごで見つかっていた。何のたまごか分からぬままマリオは何となしに持っていて、いつの間にか生まれていたのだ。
「って、ルイージならこ――」
『まァそういう事で、お前もヨッシー探してくれよな! んじゃ、よろしく!』
「! おい、ちょっと!」
ガチャ。
プー、プー、プー、プー、プー。
「……あんにゃろ、人の話くらい聞きやがれっての……」
渋々といった様子で受話器を置くロイの元へ、離れた所から声が飛んできた。
「ロイ君ー? どうかした?」
台所へと繋がる扉のほうから聞こえるそれに返事をする前に、ロイ自身がそちらへと歩いて行く。
居間と台所を繋ぐ扉の所に来たとき、ルイージが何やら仕事用具らしきものを出しているのがロイには見えた。
「あぁ、マリオがヨッシー逃がしたって。お前、何か頼まれてたのか?」
ロイがあっさり言った言葉に、だがルイージは驚いたように肩を上下した。
「えぇ!? 僕は知らないよー」
「やっぱりか。あの様子からしてそうだと思ったしな」
どうせマリオが頼んだ気になってたんだろ、とロイは苦笑する。
「あぁ、それじゃあマルス君に用事だったんだ?」
「ま、一応はな。……ってことで、それ、料金は後で払うからツケといてくれっか?」
まだ仕事中だと思われるルイージの様子を見て言った言葉に、相手は『勿論だよ』と笑顔を見せた。
「兄さんが迷惑かけちゃって、ごめんね」
「困った時はお互い様だよ。あ、玄関鍵かけっからな」
「裏口からだよね? 分かってるよ」
会話を済ませると、台所から廊下に出る扉を通り、整理のために物置から出していたものを手早く中に戻した。
といっても、きちんと整理された状態でである。
一段落ついてから、ロイは玄関から靴を持って、ついでに鍵をかけて、裏口のほうへと走っていった。





「逃げ出したっつっても、どうせ開いてた戸から勝手に出ただけだろーな」
身の回りのことをあまりきちんとしていないマリオの性格からして、恐らくヨッシーは逃げたつもりじゃないなとロイは推測していた。
とすれば、散歩のつもりで外に出て、どこかで休んでるかそのあたり。
ロイはヨッシーの散歩コースなど知らなかったが、彼の家の位置からも考えて、休むにはもってこいのとある公園へとやってきた。
「この辺かな……」
その公園は、公園というよりもむしろ『草原』と言ってもおかしくないような広さだった。
遊具らしい遊具はなく、代わりに大樹や小川などがあり、自然の姿がそのままなのである。つまりは、子供にもそうだが動物にも人気がありそうな場所だった。
ちなみにこの公園の管理者は、ロイの同級生のうちの一人の祖父らしい。
「……」
公園の入口から中を覗いていたロイだったが、とある大きな木の陰になる部分に何かが丸まっているような形が見えて、彼は呆れた。
(あいつ、全然探してねぇな……)
『あいつ』とはもちろん、マリオのことである。
近寄ってみるとそれはまさしくヨッシーの姿で、緑色の身体を丸めて彼は木のそばで眠っていた。
「おーい、ヨッシー。起きろよ」
ほがらかな声でそう言いながら、ロイは彼の体を揺する。
しばらくそうしているとそのうちヨッシーが声を出して、眠そうにまぶたを持ち上げた。
「ん〜?」
ロイの顔を見てから、不思議そうな声を上げる。
だが彼は人の言葉を喋れないので、ロイには何を言っているのかは分からない。
「マリオが心配してたぞ、そろそろ家に帰れよ」
その名前が出ると、ヨッシーははっとしたように声を出した。
そして、眠気はすっかり無くなったのか立ち上がり、ロイの事は放って家のほうへ歩き始める。
これで大丈夫だろ、と考え、ロイは一つ息を吐いた。
(ピーチがいるってんなら、別に俺は行かなくてもいいよな)
それじゃ、ルイージが一人でいるのも微妙だろうし、もう帰るか、とロイが思ったとき。
「ロイ君?」
後ろから友人のものらしき声が聞こえて、ロイははっとした。


「随分遅くなっちまったなぁ……」
すぐに帰るつもりが、予想以上に友人との話に花を咲かせてしまったらしく、藍色に染まりかけた空を見ながらロイは自宅へと足を進めていた。
(つっても、断るわけにも行かなかったしな)
先ほどの会話の様子を思い出し、ふぅと一つため息をつく。
どうやら、相手はマリオのように早口ではないため、内容の割に時間が経つのが早く感じるらしい。
ロイは相手の話すスピードに合わせるという癖があったので、長話をするつもりがなくとも長い時間話していたようだった。
(ルイージはもう帰ってるだろうな。明日にでもマリオんち行くか)
そんなことを考えながら、家へと歩いていたのだが。
「――? 鍵、開いてんのか?」
自宅である家の扉に鍵を差し込もうとして、ロイは違和感を感じた。
自分が出るときには鍵掛けたはずだよな、と数分前の事を思い出し、確認する。
家の中へ入り、消したはずの電灯のついている居間の障子を開けると。
「あ、ロイさん。お帰りなさい」
「やぁ、ロイ君。……結局お邪魔してるよ」
「お、ロイ!」
三つの声がやってきた。
「……リンクとルイージはまぁいいとして、なんでマリオまでいるんだよ」
そこにいたのは今ロイが名前を言った三人の男達だった。
ロイの台詞に、マリオは『悪いか!!』と強く答えた。
「ヨッシーが戻ってくんのが遅くてピーチ姫が帰っちまったから、腹いせにお前に八つ当たりしにだ!」
「は!? なんだよその理由! つーか本人目の前にして『八つ当たりしに』とか堂々と言うなよっ」
偉そうに腰に手を当てそう言うマリオを前にして、ロイはそんな強気な調子で喋り。
「ごめんね、ロイ君。うちの事で色々と迷惑かけちゃって」
「あぁ、それはルイージのせいじゃねーから気にすんなって」
遠慮がちにそう言うルイージに対してロイは苦笑しながら喋り。
「帰ったらルイージさんがいたからビックリしましたよ」
「だってお前に連絡とりようねーだろうが」
当り前のように普通に話しかけてくるリンクには、ロイもいつも通りだった。
「あ、それじゃあ携帯の番号教えておきますよ」
「はっ!? お前いつんなもん手に入れたんだよ?」
「今日サムスさんに貰いました。自由に使っていいからいつでも持っていろって」
「おォー、何だ何だ!? あ、それは新作のT261Gだろォ! ゲンさんストラップつきの!」
「兄さん、ピーチ姫が欲しがってたから知ってるだけでしょ」
「あれ? 番号表示ってどうやるんでしたっけ」
「……って、リンク、説明書読んだのかよ」
「読んでません」
「読めよッ!!」


マルスが帰ってきて、マリオ・ルイージが帰ったのは、結局午後の九時過ぎだったとか。



今回はロイが中心の話でした。あ、配管工ってそういうこともしますよね?(汗
結局オチのない話になってしまったような気がします;
あ、ASに出して欲しいキャラいますか?

平成17年4月15日UP


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最終更新:18:00 2006/07/09




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