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勝者と敗者
ベルン王都内。
ギネヴィアの即位式も無事終わり、エトルリア軍として活躍していた軍の者たちも故郷へと帰る準備を始めるところである。
飛竜を育てている場所とは少し違う場所で、自分が今まで世話になっていた馬を撫でていた少女の所へ、ある青年がやってきた。足音で少女も気付く。
「スー様」
「…シン」
お互い大きな反応はしない。これがいたって普通どおりである。
シンは言うのを戸惑っているようだったが、しばらく沈黙していた後、ゆっくりと、だがはっきりと喋りだした。
「スー様。帰りましょう、サカに」
「……」
スーはシンから視線をまた馬に戻した。風邪がフウ、と辺りを包み込む。その包んでいた風が止まるころ、スーはシンの方を見ることなく答えた。
「私は…帰らない」
「スー様!!」
シンが珍しく大声を出す。だがスーは反論するでもなく、ただ静かに黙っている。
「クトラは…どうするおつもりですか」
「お前が継げばいい」
「!…しかし、私は族長とは…」
「じじも、お前がいいと言っていた」
スーは聞いたことがあった。戦闘中にはなれたところでダヤンとシンが話していたこと。
シンは言葉をなくしたようで、また無言になった。会話の相手が黙れば、当然スーも黙る。
沈黙を破ったのはシンだった。
「では、スー様は、この後どこへ行かれるのですか」
返事は分かっているだろうに、シンはそう聞いていた。スーがシンの方を向く。
「私は、フェレへ行きます」
スーは臆することなく、はっきりとそう告げた。シンがスーの瞳を見ると、その色は自分が惹かれた力強さを物語っているのがわかる。
「フェレ…」
「ええ。ロイ様の故郷よ」
スーは一人の男の名を口にした。シンはギッ、と強く歯軋りする。
自分は、そいつに負けたのである。恋愛と言う名の戦場で。
「そう、ですか…」
シンにはもう何も言えなかった。彼女の意志の強さは十分に知っているからだ。
「シンは…」
急なスーの言葉に、シンは驚いたが、だが質問をされる前に彼は答えた。
「私は、サカへと帰ります」
「そう…」
シンの目には、ほんの少しだけ寂しそうなスーの顔が見えた。スーはすぐ表情を戻し、続きを喋る。
「なら、ここでお別れね」
「………」
シンは返事をしなかった。ここベルンならまだともかく、リキアにまで行ってしまったら再び出会うことはほぼないと言い切れる。
この別れは、永遠の別れに近い。
「……」
「……」
しばらくの沈黙の後、口を開いたのはやはりシンだった。
「スー様に、父なる天と母なる大地の加護を」
「…シンにも」
この場にそれ以上の言葉はなかった。

「やれやれ、やっとリキアへと帰ることが出来ますな!」
「随分長い旅になってしまいましたね」
所変わってこちらはリキアへと帰り支度をしている者たち。この場にいるのはフェレの者である。
「本当に…世界一周旅行みたいな様子だったからね。長い戦いだったけど、被害がほとんどなくてよかった」
ロイの言葉に、ランスが『全てロイ様の努力の賜物ですよ』と言うので、ロイは微笑しながら『そんなことはないよ』と軽く否定した。
「皆が頑張ってくれたからだよ。僕一人じゃ何も出来なかった」
今度の言葉にはアレンが『しかし、ロイ様は人一倍努力をされました』と言う。それにはただ『そうかな』とロイは笑顔を返した。
戦争の結果は、やはり我々の勝ちなのである。ここにいる者たちが笑顔でいるには、それ以上の理由はいらなかった。
「では、帰りましょうかな」
マリナスの言葉が聞こえたとき、ロイはハッとあることを思い出した。時計を見て考えている様子のロイを見てランスが声をかける。
「ロイ様、どうかなさいましたか」
「あぁ、いや…忘れていたことがあって。マリナス、出発するのが少し遅れるかもしれないけど、ちょっといいかな?」
「ワシは別に構いませんぞ」
マリナスにOKをもらうと、ロイはありがとうと一言言い残し、走って部屋を出て行った。
どうしてロイが走っていったのかと不思議がるウォルトのそばから、ランスはアレンのそばまで歩いていった。
「アレンは、ティト殿との挨拶は済ませたのか?」
「ああ。今はイリアに向けて飛び立ったころだろうな。…お前は?」
「姫とは…別れの挨拶はしないつもりでいる」
「!…いいのか?」
「会えば…辛くなってしまうからな」
「…そうだな」
伏せ目がちにしたアレンを、だがランスは見逃してはいなかった。

ロイにとって、目的の人物がいる場所を推測するのはもはや難しいことではなかった。
とは言っても頭で考えてと言うよりは、優しい風の吹いているところといった様子だが。
「ロイ様…」
シンがいなくなったこの場所で、スーはまたここにいる相手の名を呼ぶ。
「やぁ、スー」
ロイは不安を隠すようににっこり笑った。彼はまだ、答えを知らない。
「…この軍も、もう消えるのね」
スーが静かにつぶやいた言葉に、そうだね、とロイは答えた。
「沢山の国の人たちが混ざり合った軍だったからね。みんな…元の姿に戻る、……のかな」
心の中に小さな否定を残して、ロイは言った。元の姿では、自分の望みが叶わないからである。
「それは違うわ」
「え?」
スーはきっぱり否定した。ロイは驚きつつも、スーが否定したのがどことなく嬉しく思えて複雑な気分になる。
「元の姿より…より良い姿になって、還っていくものだわ。そうでなければ、この戦争の意味がないもの」
「そう…か。そうだよね。ベルンも、リキアも、エトルリアも…サカも」
フゥ、と優しい風が吹いた。
「クトラ族は…これからどうなるかな?」
「直るわ…きっと。それはクトラではないかもしれないけれど」
「じゃあ、ダヤンさんはこれからも族長なのかな」
ロイは、わざとスーの事を聞かない。否、聞けないようだった。
「じじは、族長を辞めると言っていた」
「えっ…!!?」
ロイは不安そうな目でスーを見つめた。スーは黙って見つめ返す。
「じゃあ……スー、…が?」
スーはパチリと目を閉じた。ヒュウゥと、先ほどより大きな音の風が吹く。
「…私ではないわ。私は…サカへは帰らないから」
「え…」
驚いた声を出してはいたが、ロイはやはり嬉しそうな顔をした。
「じゃあ…僕らと一緒に…フェレ、に…来てくれるの?」
スーは、ゆっくりと頷いた。あまり見かけないスーの笑顔がロイの瞳に映る。
「ロイ様のまとう風を…これからもずっと、感じていたいから」
「スー…」
ロイはスーに近づいて、優しく抱きしめた。シンの時とは少し違うが、やはりここにはもう言葉は必要ではなかった。

「そう言えば、馬はどうするの?」
ロイと共にフェレ家の他の者たちの所へ行こうとしたスーは、この戦争でずっと自分の足となってくれた愛馬が鼻を鳴らしていたことに気付き、そう問い掛けた。
ロイも、スーのその質問で馬のことを思い出す。
「あぁ、フェレの城で飼うよ。大草原とはいえないけど、馬を十分に走らせるくらいの土地はあるだろうから」
「出来るの?」
「まぁ…そのくらいのワガママは許されるでしょ」
ロイが悪戯っ子のようにニコッと笑う。『無理なら『この戦争で一番の功績者は誰?』って父上に詰め寄ってみるよ』などと言うので、スーもクスッと笑ってしまった。
「もともと、戦争に行く前より一人多く帰ってくるんだから、同じようなものだよ」
「そうね…」
ロイは、半歩後ろを歩くスーの手を掴んだ。スーは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに直る。
スーに笑顔を見せてから、ロイはもう一度前を向き、スーと手をつないでいない左手を空高く上げながら叫んだ。
「さーって!まず最初にするのは、スーを連れていく事に対してのマリナスへの言い訳かなっ!」
不安は沢山あったけど、悲しいことが起こらなくて、本当に良かった…と、ロイは心の中で幸せをかみしめていた。



支援会話を見ると、スーってシンと話すとき、たまに敬語になるんですよね。
それってもしかしてシンにつられてるんじゃ…とか思い、ここでも中途半端に敬語混じり。(笑
あと、スーが告白…というかフェレに行く理由を言うとき、
『風』とか『感じ』とかそういう単語は入るんじゃないかなぁとも思いました(笑)。
締めが甘いなぁ、と読み返してみて思いました; 精進します。

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最終更新:12:43 2006/06/27




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