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不安感
「あの…ロイ様…。不吉な前兆が…」
今、ロイに本人的には必死で話しかけている髪の長い少女がいる。彼女の名前はソフィーヤといい、竜の血を持つ者だと言われている。それ故ベルンの軍に捕まり、悪用されそうになっていたのだが、エトルリアの魔道将軍セシリアを救出した時にロイに助けられ、それからは行動をともにしていた。
「そうか…でも、守るのは難しそうだ」
この戦争に勝つ為には怯えているわけには行かないからとソフィーヤに告げる。ソフィーヤは何か言いたそうな様子をしたが、すぐに黙り込んでしまった。
ロイはソフィーヤから視線を前に戻す。砂嵐の為かなり視界は悪く、遠くに行くよう指示した仲間を見失ってしまいそうで少し恐くなる。
チャドのおかげでそれは何とか平気だったが、不安と言えば個人的なことだった。
突然辺りを見回していたチャドにドラゴンナイトが槍を投げてきた。チャドは何とか避け、ルゥがエイルカリバーで攻撃する。そいつはルゥの攻撃でやられたようだったが、もう一匹やってくると言うチャドの報告に、ロイはすぐさま指示を出した。
「スー、長弓で攻撃して!」
ここは砂漠地帯であり、馬はかなり砂地に弱い。城でいくらかの運動だけをさせている馬よりは遊牧している馬の方がまともだったが、それでもやはり魔道士系にはかなり劣る。それでもスーを前線に出していたのは、『これからベルン兵…つまりドラゴンナイトが増えてくるから』という半ば強引な理由よりだった。
本音は…やはり違うのだが。
スーは無言で、やってきたドラゴンナイトに弓を向ける。砂地と言えど彼女の命中力、運動能力に変わりは無く、移動力の無さを特に離れた相手に攻撃できる長弓によってカバーしていたので十分に戦えていた。
二度の攻撃。それらは全て当たり、飛竜に乗っていた騎士が落ちていったのが見えた。
「よし、よく当てたね!」
その状態が確認できるとロイはすぐそう叫んだ。長弓はそれ自体が中々命中率が悪く、当たりづらいためである。
ロイの声が聞こえたのか、スーはこちらを向いた。目が合い、ロイはふっと嬉しくなった。
不安とは、最近スーの様子がおかしいのである。セシリアとソフィーヤを助け、ナバタの砂漠に付く頃にはそう思えていた。前よりそっけないような、よそよそしい感じがするのである。
ロイがそういったことを考えていた時、自分のそばで悲鳴が聞こえた。
「きゃぁっ…」
はっとしてロイがそちらを振り向く。あのか細いような声は、ソフィーヤだ。
彼女は、道案内と言う事で前線に出ていなければならなかった。だが彼女には予知能力はあっても戦闘能力はあまり高くはない。危ないからあまり僕から離れないで、とロイは指示を出していた。
今ソフィーヤに攻撃したのは山賊。当たった位置があまり致命的でなかったのが幸いだった。
ロイは急いでその山賊を撃墜すると、ソフィーヤのケガの様子を調べた。
「やばっ…セシリアさん、ライブをお願いします!」
エトルリアの魔道将軍セシリアも、今はロイ達と行動をともにしている。彼女も馬のため移動力はあまり高くなく、それゆえロイのすぐ近くにいた。ということは、回復も頼みやすい。
セシリアはロイの指示を受けてすぐさま治療に取り掛かった。
ソフィーヤの傷がふさがっていく。辺りを見回して山賊の姿がないことを確認し、ロイは安堵の胸をなでおろした。
と、そのときロイはあることを思い出した。
「…っ!スー…」
ロイが呟いた言葉は砂嵐の音にかき消され誰の耳にも届かなかった。彼が慌ててスーのいる方を見たとき、相手は同時に視線を逸らした。まるで再び目が合うのを避けるかのように。
「スー…」
ボーっとしているように見えたのか、治療を終えたセシリアが『ロイ!』と喝を入れた。

明らかに、スーは自分をさけている、とロイは思った。
他のほとんどのものには分からないような(シンとかには分かるだろうけど)いつもと違う様子だって、普段からずっと見ているロイにはやはり分かるのである。
今回、ここにある新将器を取りに行くときも、スーは強いからとやはりメンバーには入っている。だがそれを言う時にも事務的な会話だけで終わり、以前の親しげな様子は見られなかった。
「とりあえず、ここを制圧して新将器を手に入れなきゃ…」
個人的な用事は後回しにすることにして、ロイは出陣した。
「ここは…沈む床があります…。…注意して、渡ってください…」
ソフィーヤの助言の通り、あっという間に道が変化する。地形が変わるたびに進軍方法を変えなければならないので、ペガサスナイト以外は中々苦労した。
指示を出し終えて、ロイが『フゥ』と一息入れた時。

ザバァンッ

「わっ!」
ロイのいる場所が水に沈んだ。いま沈んだ場所にはロイの他にはティトしかいなかったので問題はない。
このままでは身動きが取れない…となれば、誰かに自分を救出してもらうしかない。その時偶然にも傍にいたのは…そう、スーだった。
「っ…スー!僕を救出してっ!…くれない?」
ただ指示としてそう言う気にはなれず、ロイはそう付け足した。
スーは無言である。表情も全く変えなかったので、やっぱり僕を避けてるんだな…とロイは思った。
だが、次の瞬間、スーは右手に持っていた弓を左手に移し、手を伸ばしてきた。
ロイは少しの間、驚いて動きが止まる。
「敵が来るわ。早く」
その声でハッと我に帰り、ロイはスーに手伝ってもらいその馬に乗った。前に乗っていては攻撃が出来ないので、当然ロイはスーの後ろである。
スーは馬を走らせ、水辺を越えてやってきた海賊に矢を放った。
「…スー」
ロイはスーの後ろから、相手にだけ聞こえるくらいの声で呟いた。返事はないが、ロイは構わず続ける。
「最近…僕をさけてないかな?」
疑問の形でそう言うが、実際は肯定である。スーは敵の攻撃を避けてからゆっくり口を開いた。
「そんなことは…」
「あるよ」
スーの意見を否定するように、ロイはきっぱりと言った。スーは少し黙る。傭兵は中々命中率があるので、注意が必要だ。
「なんだか…騒がしくて」
ポツリとスーが呟いた。短弓に持ち替え、海賊に攻撃すると、どうやらクリティカルしたようでその敵はざばんと水の中に沈んでいく。
ロイは他の者達に指示を与えつつ、スーの言葉の意味を尋ねた。
「騒がしいって…僕のそばが?」
「…どこにいても…。自然の声が聞こえない」
スーは馬に、止まるように指示した。ぴたりと止まると、急に周りのがやがやとした音が耳に入ってくる。近くの敵はかなり減ってきたらしく、スーが働かなくてもさほど問題はないようだった。
ロイは言葉をなくしてしまった。やはりロイはリキアの人間であり、サカの信念に対する事は簡単に口に出来ない。
オスティアで学んでいたからといくらかの知識はあっても、それらはやはり知識どまりである。
スーも黙ってしまい、会話はここで途切れた。
無言のまま立ち尽くしていると、ふと敵の司祭が何か素振りをしているのが見えた。相手もこちらを見ている。ロイが相手の行動の意味に気付いたときには、もう遅かった。

バリバリッ

「きゃあっ!」
そんな声とともに、スーとロイが馬から投げ出された。幸いな事にロイにはダメージはないようだ。だがスーは元々魔法に対しあまり強くはない。普段ならその抜群の運動能力で避けるのだが、今はロイを救出していたのですばやい動きが出来なかったのだ。
「っ!スー!!」
ロイは急いでスーのもとに駆け寄る。どうやら投げ出されたせいで敵のサンダーストームの範囲から逃れたらしく、それ以上攻撃される事はなかった。
ロイは辺りを見回し、杖を使えるヴァルキュリアの人物を見つけると、大声でその名を呼んだ。
「セシリアさん!スーにリライブを!」
指示を受け、セシリアはこちらに馬を走らせる。今回復させるから大丈夫だと言うためにスーに視線を戻そうとした時、ロイは服をグッと捕まれる感覚がした。
スーが自分の服を掴んだのである。
「…スー?どうしたの?」
だがスーはどことなく寂しげな表情をするだけで返事はなかった。


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最終更新:12:44 2006/06/27




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