人魚に恋した男の話<TOP

人魚に恋した男の話























私は人魚に恋をした。






彼女の全てを知りたいと思った。




















あの人魚は、深い海の底から時折顔を出す。




















そして、私を見つけては微笑み、






不思議な声で綺麗な歌を歌うのだ。




















私は彼女のことを知りたいと願っているのに、






私が知っていることは、たったのそれだけ。






















なぜなら、彼女はその生活の大半が海の中だからだ。























一度、舟に乗って人魚の行方を追いかけたことがある。















あの時の私は、必死だった。






どうしても、人魚の住む世界を見てみたかったのだ。




















沖のほうまで追いかけて、






そのうち人魚は深い海の底へと泳いでいった。
















小さくなって、濁っている水のせいで姿が全く見えなくなるまで、






私は舟の上で立ち尽くしていた。





























私も、泳げる。






だが、それは『人間』の常識で考えた程度でのみ。






















数分も、息をしないで生きてはいられない。























なぜ私と彼女は体のつくりが違うのか。









なぜ彼女は水の中で生きていけるのか。









なぜ私は空気がなければ生きていられないのか。










なぜ天は、人間と人魚の姿はあまりにも似ているのに、そんな違いをつくるのか。





























彼女は水面へと上ってくることができるのに、






私は水底へと潜ることができない。










私が彼女の生活を知るには、彼女に聞くしかないのだ。




















だが、私が訪ねても、






彼女は彼女の言葉で話すのみ。
















彼女の使う言葉が、私には理解できない。







どう頑張ろうにも、声そのものが違うのだ。


























諦めなければならぬのか?


















彼女は私の言動を怖がるようになり、浜に上がらなくなった。






ごく稀に、水の中から顔を出すだけになった。






















私は彼女の歌が聞きたい。






ただそれだけで良い。他には何もいらぬ。





















そう言う私の言葉を聞いてくれ。























明日彼女が何をするのか、私には分からぬまま。

























同じと思っても、中身は実はとっても違う。

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最終更新:19:23 2005/11/26




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