違う心と同じ意志<小説:サモナイ2TOP
違う心と同じ意志



アグラバインが自分を助けてくれた者たちを失くし、その子供を引き取って育て始めてからしばらくの月日が流れた後の事だった。
アメルには夕食の準備を頼み、義理の娘がいなくなったこの場で、アグラバインは三つの物を二人の子供に見せた。
「剣、槍、斧。お前たちが使うのならば、このどれかがいいだろう」
武器と言うものの、そこにある三つはどれも刃はついておらず、訓練用の物のようだった。
二人の息子は…男としての強さを手に入れたいと思ったのだろう。
決して己の欲望の為ではなく、理不尽に対する抵抗の為だけに、と約束させた上でアグラバインはその三つを持ってきていた。
「剣が、最も攻守のバランスが取れた武器だろう。リーチもいくらかあり、攻撃力もそこそこある。
 槍はリーチが長く、広範囲に及び攻撃が出来るが、一撃の威力は他よりは少し劣る。
 斧は槍とは対照に、一撃が強い。だが攻撃範囲は狭く、隙ができやすい代物だ。
 ……ロッカ、リューグ。どれを選ぶ?」
説明を終えたアグラバインにジッと見つめられて、二人はごくりとつばを飲んだ。
今聞いたことを頭で考えているロッカの隣で、リューグが先にその返事をする。
「おれは……斧にするっ!」
はっきりと言い切った赤い髪を持つ少年に、ロッカはおろかアグラバインも少し驚いた。
彼が自分のことを『おれ』と言うようになったのは、つい最近である。
「……なぜじゃ?リューグよ」
静かにそう問いかけるアグラバインに、リューグは臆する事なくはっきりと告げる。
「強く、なりたいから。何よりも、誰よりも……だから、一番強い武器をって」
「ぼくは、槍がいいです」
リューグの言葉が終わるか終わらないかのうちに、今度は兄・ロッカが口を開いた。
彼が目上の者に対し敬語を使うようになったのも、ごく最近である。
「兄貴?」
「ロッカは、どういう理由があるのだ?」
同じものを選ぶと思っていたのだろうか、リューグが意外そうな顔で隣のロッカを見る。
ロッカはアグラバインの質問に、少し不安の残る声で返した。
「槍なら……相手に攻撃される前に、攻撃が出来るから」
その理由に黙るアグラバイン。隣にいたリューグはそれを『攻撃されるのが嫌だから』と言っているように感じ、兄に文句を言った。
「はッ!相手を怖がってちゃ、勝つことなんて出来ないぜ?」
「待って、リューグ」
リューグのその尤もな意見を一度止め、ロッカはリューグのほうを一旦向いてから自分の師となる人物を見た。
「それに……槍なら、隣にいるリューグも一緒に守ることができるから」
「! ……何言ってやがる、兄貴!?」
ロッカの言葉に大きく反応するリューグ。だがロッカはジッとアグラバインを見つめていたままだった。
アグラバインは少し間をおき、『そうか』と呟く。
「分かった。……お前たちに、武器の扱い方を教えよう。リューグには斧を、ロッカには槍を」
「よろしくおねがいします、おじいさん」
「………」
ロッカがすぐにそう応えたからか、弟は何も返事をしなかった。その二人の様子を見てから、アグラバインは付け加えるように言う。
「これからはワシのことは……祖父ではなく『師』と思え」
「「!」」
その言葉に、二人は同時に驚いたが、やがて少し時間をおき、こう答えた。
「はいっ!」
「頼むぜ」




「……あれから、随分と過ぎたな」
「……ああ」
ある夜。どちらが話すでもなく二人は昔を思い出していた。
部屋の、開いた窓から風がヒュウゥ、と入ってくる。
「変わってねェな……昔っからずっと、人を守るとばかり言いやがって」
「リューグもな。いつも見ていて危なっかしかった」
イスに座るその人物を見ながらロッカが返す。リューグは『ハッ!』と鼻で笑ってから、壁に立て掛けてある二つの武器を視界に入れた。
槍と斧。もはや見慣れた武器であるその二つは今、同じように壁にもたれている。
風が吹いた後、青い髪が揺れた。
「お前の言う事、尤もだったな。……攻め入らなければ、勝負には勝てない」
「だが、勝ったときに手元に何も残らねぇんじゃ、意味はねえ」
相手の言葉に繋げるように、リューグが呟いた。それにロッカは驚いたようで、一瞬眼を見開いたがすぐに微笑に変わる。
「……そうだな」
窓についていた白いカーテンが大きく揺れた。
ロッカがベッドに座ったまま、外の夜空を眺める。月は新円だった。


「リューグ」
「ん?」
しばらくの沈黙を破って、ロッカが言った。
「死ぬなよ」
「ハッ、何言ってやがる。俺が悪魔なんぞに負けるわけ――」
ロッカは真剣な目で見つめていた。その様子に気づいたようで、リューグは言葉を止める。
「死ぬな」
二度目のその言葉に、リューグはしぶしぶ、といった顔をした。
「…………分かったよ」
その返事にロッカは表情を緩めた。自分の兄の様子を見て、ふと思ったことをリューグも口にする。
「バカ兄貴は、アメルを奴らに殺させるんじゃねえぞ?」
「リューグ……」
リューグは相変わらず険しい表情のまま。だが自分に言うその言葉から優しさがにじみ出ている事はロッカにはすぐに分かった。
「アメルだけじゃねぇ。……ミニスも、モーリンも……仲間、全員だ」
『俺以外のな』と、リューグはロッカが自分に言った以上のことを兄に言った。
ロッカはくす、と小さく笑う。
「僕のほうが難しいじゃないか」
「はッ、守るのはテメエの得意分野だろうが?」
「……まぁ、そうだな」
リューグも一瞬、微笑を浮かべた。
「俺が安心して奴らを潰せるように、テメエは守れって言ってんだよ」
「リューグ……」
「誰か一人でも欠けてやがったら、許さねェからな」
言い終えるとすぐに、リューグはぷいと顔を背けた。言っている事が恥ずかしいと感じたのだろう。
「ああ」
ロッカは無言で笑顔を作った。リューグがここ数年見せた事のないような、満面の笑みである。
見ていなくても相手の様子が分かり、リューグは顔を背けたまま言った。
「……もう寝るぞ」
明日は、大悪魔と戦うであろう日。


全てが終わったあと、兄は……今にも泣き出しそうな顔をしている弟に、叱られる事になる。







双子がどのように武器を選んだのか、ってのはこんな感じかと思いましてー……(何
アグラバインの言ってた武器の性能とかは私が適当に考えただけなので、
実際に使う機会があっても当てにしないで下さいね(ねぇよ

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最終更新:13:05 2006/06/27




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