Love me, アイラヴユー!
普段通りの何気ないある朝、その部屋は普段通りの朝を迎えることはできなかった。 その部屋とは……屋敷にいる姫の一人、ゼルダの部屋。 「ん……」 「……♪」 普段通りにベッドで眠る女性のそばには、普段はないような黒い影。その人物は剣と盾を背中に備えた状態で、その寝顔をただ眺めていた。 屈んで、左手で頬杖をつきながら、笑顔で。 「ほんと、可愛いなぁ……」 ダークリンクが小声でそう呟いた頃、ゼルダは『う…』と小さく声を漏らした。 少しすると、先ほどより大きく身体が動き……ゼルダの両目がゆっくりと開く。 普段通りの朝。 のはずが、目を八分ほど開いたゼルダの視界には、黒い帽子を被った男の姿があった。 相手は赤い瞳でゼルダをじっと見つめた後、にっこり笑って言う。 「お早う、ゼルダ♪」 その言葉に、ゼルダは数刻止まった。 「きゃああぁぁっ!!」 唐突な大声に驚いて、ダークリンクがゼルダのベッドから少し距離を取る。 今が朝の早い頃だった為、近くの部屋の者たちはまだ眠っているらしく反応はない。 ちなみに、厨房とは中々に離れているので、リンクにも聞こえはしない。 ゼルダは叫ぶとともに起き上がり、ダークリンクと距離を置くようにベッドの上で後ずさった。 「な、な……なんで、いるのよっ!?」 その声に、ダークリンクはいつもの調子を取り戻したらしく笑顔になって言う。 「なんでって、ゼルダの寝顔を見たかったから」 語尾にハートマークがつきそうな調子で言ったその言葉に、ゼルダは呆れのような感覚を覚える。 直後、そんな言葉に惑わされていちゃ駄目だとゼルダは小さく息をついた。 「どうやって入ってきたのっ!」 「どうって、窓通って」 ダークリンクの言葉に、ゼルダは『え?』と背中にある窓を確認した。 昨日の夜のことをよぉく思い出してから、ダークリンクに向き直って言う。 「……窓…って、鍵掛けといたはずなんだけど」 「そんなもん俺にとっちゃ関係ないって♪……はぶっ!」 あっさり言い切ったダークリンクに、ゼルダは手元にあった枕を相手の顔面めがけて投げた。 それが当たった事でダークリンクは屈んでいた状態からしりもちをつく。 当然だが枕に殺傷能力があるはずは無く、それは相手の膝辺りにぽとっと落ちた。 「立派な不法侵入よ」 声のトーンを落としたゼルダの台詞にも、ダークリンクは相変わらずのへらへらとした表情。 「だいじょぶだいじょぶ!捕まる前にきっちり逃げるからな、俺は」 そういう問題じゃないでしょとゼルダが言おうとした時、ダークリンクは懐から何か布状のものを取り出した。 「こいつ使えば簡単だし」 そう言いながら広げたそれは、真っ赤なマントのようである。 ゼルダが『??』マークを浮かべていると、ダークリンクはニコッと笑って説明し始めた。 「これはマジックマント。羽織ると姿を消す事が出来るアイテム」 「え……?」 まさか、そんな事が出来るはず無いだろうという雰囲気ばっちりでゼルダはそれを見ていた。 が、その考えは直後に驚く理由になる。 「よっ……」 「えっ、嘘っ!?」 それを背中に回したと思ったら、急にダークリンクの姿がゼルダの視界から完全に消えた。 呆然と辺りを見回すゼルダだったが、ふっとある事に気づき下を向く。 ベッドの、自分のいる位置から少し離れたところにはうっすらと暗い部分があった。 「っと、まあこんな感じで」 その声とともに、ベッドの上にマントを持つダークリンクの姿が現れた。その位置は、先ほどゼルダが見ていた場所であったりする。 「影だけは見えるのね」 「あぁ。これで透明になってる時は窓とか、自由に通り抜けられるからな」 言ったあと、ダークリンクは小声で『魔力使うけど』と呟く。 ゼルダははっと、そんなことを聞きたいわけじゃないと思い出した。 「第一、どうして朝早くからここに来るのよ……」 「いやぁ、俺、夜は何しでかすか分かんねぇから、朝か昼しか会えねえからなー」 「?」 ゼルダの疑問符に、ダークリンクは一言『ああ、気にすんな』と付け加えた。 「オ姫サマの寝顔は、どんなもんかと思ってな」 その言葉に、ハッと思い出したゼルダは相手にこう聞いた。 「どうして、私が姫だと知ってるのよ?」 ゼルダにとっては当然の質問だが、相手はその質問を聞いて驚いた様子を見せる。 しばらく呆然とゼルダの顔を見てから、ダークリンクは確認するように言った。 「お前……ホントに姫なのか!?」 「……え?」 この答えに、今度はゼルダが驚く。 ダークリンクはその態度から推測したらしい、『ああ』と今までの笑顔に戻った。 「俺がただ単に気に入った女性だったから、姫って言っただけ。まっさかホントに姫だったとは、驚きだなー」 そう言いつつも、その様子はどこか嬉しそうである。 ゼルダはその状態に気づいてから、言わなければ良かったかも、と小さくため息をついた。 「ま、何にも知らねえよ、俺は。俺が覚えてる事って言ったら、俺の事と、『リンク』って名前の奴が俺とそっくりだって事ぐらい」 何気なくベッドの上に座りながら、ダークリンクが言う。ゼルダはそれを聞いて、ふと疑問を覚えた。 「どうしてリンクの事は知ってるのよ?」 その質問に、ダークリンクは数秒、きょとんとした顔をして。 「さあ?」 と一言だけ、首を傾げながら答えた。 「俺の姿からして、生まれに何か関係あるんだろうな」 そうは言いつつも、その様子はどこか投げやりで、興味がなさそうに聞こえる。 「何にしろ、そのリンクとやらにどうにか勝たないといけないんだけどなー」 ダークリンクの、リンクと敵対すると言っているかのようなその発言に、ゼルダは身構えた。 「…どういう意味?」 その声でゼルダのほうを向き、相手が警戒しているのにダークリンクは少し驚いた。 直後、にへらっと明るい表情を見せる。 「ゼルダの好きな男ってそいつなんだろ?だったらそいつに勝たなきゃ、振り向かせられねえじゃん」 「……は?」 「恋敵ってヤツか? 手強そうだなー、この調子だと」 ゼルダは少しの時間、呆れた表情をしていた。 つまり、勝つ負けるというのは恋愛上のことらしい。 ついでに言えば、それは自分自身の事らしいというのだ。 無意識のうちに、ゼルダは大きなため息をついていた。 「……!」 ふとダークリンクが何かに反応する。それにゼルダが気づく前に、彼は目の前の相手に言った。 「じゃ、俺も腹減ったし朝飯食いに行くかな。じゃあな、ゼルダ!」 「えっ」 ゼルダがそれに何か返す前に、ダークリンクはマジックマントを羽織ったらしく見えなくなった。 窓は開いていないが、どうやらそこを通ったらしい。 そういえばこの部屋は二階だったような、とゼルダが思ったとき、外で何かが着地したような音がした。 (どうやって登ってきたのかしら……) そう、ゼルダが考えた時。 こんこんっ 「ねーゼルダー、朝ごはん何がいいー?」 部屋の扉を叩く音と、どうやらカービィのものらしい声が聞こえてきた。 「サムスが何作るか迷ってるらしーからさ、みんなの意見聞きたいんだってー」 「ああ、うん。今行くわ」 簡単な返事をしてから、ゼルダはベッドから歩き出す。 その途中、ふとダークリンクの事を思い出したのだが。 (…別に、わざわざ話す必要も無いわね) そう自己完結して、部屋の扉を開けた。
最後のには全くもって意味はありません。(笑 そろそろ気づくかもですが、ダークリンクは神々のトライフォースのリンクをベースにしてあります。 オリジナル(?)キャラは設定を徐々に教えていくのが面白いですねぇ(爆 平成16年8月5日UP |