Love me, アイラヴユー!<小説:スマブラTOP
Love me, アイラヴユー!
とある日、とある部屋で、とある女性が窓から見える青空を眺めていた。
「…はぁ…」
乱闘時に付けている頭飾りや耳飾りなどは全て外し、髪の結びもといて、非常にラフな状態である。
だが、その表情はそれほどほがらかではなかった。
「…リンクは、どう思ってるのかしら…」
窓から風が吹き、長い髪が揺れるのと同時に長い耳には風の透き通る音が聞こえた。
「…私のこと…」
のんびり流れる雲を目で追いながらポツリポツリと呟いている姫は、愛しい人のことを考えるのに忙しいようだった。
さり気なくアプローチしても全く女心に気付かない時の勇者にほとほと困っているのだ。
「…はぁ…」
悩める少女がため息をついたとき、急に窓の上から声と共に人影が現れた。
「なぁ、『リンク』って緑帽子の時の勇者のことか?」
突然視界に入ってきた男に驚き、ゼルダは小さな悲鳴を上げる。
そして、落ち着いてその姿を見るとまたビックリしたようだ。
「なっ……」
それもそのはず、その男は…屋根につかまっているのか上下さかさまだが、中分けの金髪、長い耳。背には見慣れた剣と盾をつけていた。
服や帽子は黒く、瞳はシークのように赤かったが、顔つきは何処からどう見ても今ゼルダが呟いていた者とそっくり。
男は少しの間そのままの状態だったが、鞘から剣が抜けそうになったので慌ててゼルダの部屋に着地した。
青いピアスをつけているところまで同じである。
「何者!?」
先ほどとは打って変わって、警戒心を強めた口調でゼルダが叫ぶ。
だが、相手にはそんな気は無いようで軽い返事なのが丸分かりだった。
「俺?俺は…ダークリンクって呼ばれてたこともあるなぁ」
その返事に呆れながらもどうしてここにやってきたのかと質問しようとすると、ダークリンクはそのまま続けて喋りだした。
「ある男に追われてここの屋根の上に逃げたんだが…聞き覚えのある名前が聞こえたから何かと思ってな」
どうしてそんなに気楽な表情で言うのだろうか。
そう思ってからゼルダは、その言葉の中にとあることを思い出し赤面した。
「ちょっと待って…じゃあ、私の独り言…全部聞こえて…」
「随分ため息が多かったよな」
はははと笑いながら言うダークリンクに、ゼルダは顔から火が出ているような感覚を覚えた。
気持ちを紛らわすかのように、ダークリンクの身体を窓の外に押し出す。
「かっ…帰って!!」
だがダークリンクは窓のふちに手を掛け、『冗談じゃないぜ』と言わんばかりに抵抗した。
「おいおい、何処に帰れって言うんだよ〜!それに、ある男に追いかけられてるって言っただろ?」
そういえば、とゼルダが一瞬力を抜いた隙にダークリンクはするりと部屋に忍び込んだ。
そのすばやさに呆れながら、ゼルダはため息を一つ落としてから言う。
「全く…。…で、あなたは何者なの?誰にどうして追われているかとかきちんと説明して」
本心では一刻も早く追い出したいのだが、こいつの頼みを聞いてやらないとこのままいすわりそうなのでしかたない、というゼルダの様子はまる分かりだった。
だが当の本人はそんなゼルダの様子には反応せず、聞かれたことに正直に答え…
ようとしたつもりのようだが、それは不可能だった。
「何者って言われても…、昔のこと、全然記憶にないんだよな」
ダークリンクの答えに、ゼルダは思わず聞き返していた。
相手は指を折って数えるそぶりをしてから返事を続ける。
「っと、覚えてるのは大体…五日前かな。覚えてる時点ですでに街の中にいたけど町並みもさっぱり分かんねぇし、腹は減るし…」
話がだんだん真面目じゃない方向に流れているのではないかとゼルダが感じたのは決して間違いではなかった。
「なんか美味そうなにおいがしたからある家に入って物食ったんだけど、家を出たらそこのオヤジが何か言って追いかけてきて…」
『で今に至る、ってことだ』と締めくくるダークリンクに、ゼルダはすでにため息すら出なかった。
「…それって…ただの…」

「食い逃げじゃない!!」

自分が何故追いかけられているのか未だに分かっていないダークリンクの耳にゼルダの強い声が響く。
『ちゃんとお金を払わなきゃ駄目じゃない』と注意され、やっと何がいけなかったのか気が付いたようだった。
「だってよぉ…ただ入っただけなのにあっちが勝手に持ってきたんだぜ〜」
相変わらず言い訳を続けるダークリンク。
だが常識として知っていることだときつく言われ、渋々非を認めたようだった。
子供のようにガックリと頭を落とすのを見て、ゼルダはこちらもまた渋々と言う。
「…しょうがないわね、お金は私が代わりに払っておくから…。今度からはちゃんとするのよ」
その言葉が聞こえた瞬間、ダークリンクの動きが一瞬ぴたりと止まった。
顔をわざとらしいほど大きく上げると、その表情は喜びと期待の入り混じったような表情であるのが見える。
「マジかー!?サンキュー!」
ダークリンクはとても嬉しそうにそう口にした。眼や服の色は違えどその顔つきはリンクと瓜二つなので、それがリンク本人の笑顔のように見えて、落ち着いてきていたゼルダの顔がまた赤みを帯びる。
ゼルダが視線を逸らすのと、ダークリンクがまた喋るのはほぼ同時だった。
「お前って、こんなに綺麗なのにすっげー優しいんだな〜♪」
は…!?
ゼルダは目の前のだらしないように思える男の顔をもう一度、睨みつけるように見た。
その顔は先ほどとは別の赤みを帯びている。予想もしなかった事を言われて戸惑っているのだろう。
何を言えばいいのか無意識に悩んでいる間に、ダークリンクは先ほどからの微笑みを絶やさずに続けて喋った。
「なぁ、お前ってなんて名前なんだ?」
その言葉でふと今まであった妙な緊張が解け、ゼルダの、この男に対しての強気な調子が戻った。
「っ…別に教えなくたって構わないでしょ」
そうゼルダは答えるが、ちょうどそのとき食堂の方から声が聞こえてきたのであまり意味はなかったのかもしれない。
「ゼルダー?晩ご飯の時間だよぉー!早くしないとボク食べちゃうよ〜♪」
カービィのあまり大きくはない声が聞こえて、一瞬この場が沈黙に包まれる。
どうしてこんな時にっ…とゼルダの表情は難しい表情になっていた。
反対にダークリンクは少し嬉しそうな表情だったような。
「ゼルダー?いないのー?ボク貰っちゃうよー?」
このままでは本当にカービィに夕食を取られかねないので、ゼルダは仕方なしに返事をした。
「今行くから少し待って!」
そう返事をしてから、ゼルダは好ましくないものを見るようにダークリンクを視界に入れる。
相手は予想通りに笑顔で、こちらを向いたのに気付いてニコッと笑い言った。
「へぇ、ゼルダって言うのかぁ。良い名前だな♪」
ゼルダはダークリンクが笑顔になるたびにうんざりが増すような感覚を覚えた。
決して笑顔を返す事はなく、『もういいでしょ』とぶっきらぼうに答える。
「私がいないうちに部屋で何かされても困るし、もう用件はないでしょ?さっさと出て行って」
その冷たい言い方にダークリンクは少し表情を濁らせる。
だが、ゼルダが視線を逸らしたのをいいことに、ふっと近づきその右頬に自分の唇を触れさせた。
「っ!!?」
何が起こったのか理解しようとこちらを向くゼルダの顔は、今まで例を見ないほど真っ赤になっていた。
流石にやりすぎたかと思ったダークリンクは攻撃されるのを恐れて部屋の窓の方へと移動する。
「…じゃ、邪魔したな!」
その男を睨みつけながら、ゼルダは自分の今の顔が真っ赤であることをあの男に見られてしまったのではないかと思い、恥ずかしいような怒りのような気持ちを感じた。
「っ…本当に、大迷惑よっ!」
自分を誤魔化すかのようにゼルダは強い調子で言う。
それが先ほどとの調子と違うのはダークリンクもゼルダも分かっていた。
言葉をなくしたゼルダに、ダークリンクは最後に一言呟いて窓から出て行った。
「じゃぁな、可愛い姫さんよ♪」
最後までそんな事を言うその男に、ゼルダは困った表情をしていたそうな。

夕食後、とある男が屋敷へとやってきた。
玄関のところで『ここにゼルダという女性の方はいますかね』と言っていたので、ゼルダが表へと出る。
「これ、あの…黒服の男があなたにツケといてくれって、言ってた…領収書です、はい」
今日の夕方の苦い思い出を思い出しつつ、ゼルダは何気なくその領収書に目を通した。
「…って、何この金額ーっ!?」
思わずゼルダは叫んでいた。
周りが『何だ何だ』と野次馬精神を見せたので、慌てて誤魔化す。
…こんな値段じゃ、誰だって追いかけてくるに決まってるじゃない…。
周りの皆を誤魔化すのと、大金を払わなければならないのとで、ゼルダは非常にうんざりしてしまったとか。

それと…。
「…っくしゅんっ!」
ゼルダが大声で叫んでいた頃、木の上でオカリナを吹いていた黒帽子の男は悪寒がした。
月の光を浴びて銀色に輝く髪を、オカリナを持っていないほうの手で掻き上げ、一言こう呟く。
「ゼルダ、俺の話でもしてんのかな…」
その表情には夕暮れ時のへらへらとした笑顔はなく、むしろ、かなり落ち着いている様子。
「…さぁて、どう落とそうかな…」
今日会って一目惚れした女性の事を考えながら、その男――ダークリンクは不敵な笑みを漏らしていた。



ずいぶん前から考えてた話です〜(笑
ダークリンク…いやぁ、こういう彼もありかと思いまして♪
最後のシリアスっぽいのは、リクエストがあればこれから明らかになるかもしれませんね〜(邪笑
あ、タイトルB’zつながりだ…(汗

平成15年12月3日UP


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最終更新:18:04 2006/07/09




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