得手不得手には程はない!?<小説:スマブラTOP
得手不得手には程はない!?
「あ、ロイさん、明日マルスさんと一緒に料理当番ですからね」
そういえばそんなころだったか、と、ロイは朝食作りのために早起きすべく目覚まし時計をセットした。

「ふわぁ〜…」
普段より1・2時間ほど早い起床で、ロイはあくびをした。予定がなければ目覚ましは掛けず、誰かに起こされるか普通に目が覚めるまで眠っているため、こんな日は余計に辛いのだろう。
(料理当番か…そういや、マルスは料理できんのかな…)
二人ずつ順番どおりに廻っていくこの当番の決め方では、ロイはマルスと共に料理をするのは初めてだった。
前回マルスは偶然にもカービィと一緒になり、彼がコックの能力で全てあっさり作ってしまったため、マルスの料理の技術は分からなかった。
(…さ、て。行くか。)
心の中でそう呟き、ロイは自分の部屋の扉を開ける。と、それとほぼ同時に戸を挟んだ反対側から『わっ』と驚いたような声が聞こえた。
青髪の剣士が、ロイの部屋の扉の目の前に立っている。
「あれ、マルス。どうしたんだ?」
「あ、いや…君がまだ眠っているかと思って。」
マルスはどことなく元気のないような声で応える。ロイはその様子を疑問に思ったが、次の相手の言葉で納得をした。
「リンクが今朝から体調が悪いみたいで…朝食、僕と君の二人だけで作らなくちゃいけなくなりそうなんだ。」
「ああ…だから起こしに来たのか。」
「うん…その…」
マルスのそのしどろもどろな様子に、ロイはもしや、とある推測が浮かんだ。
「僕、料理って全然出来ないから…ロイにまかせっきりになるかもしれない…から…」
「ああ、やっぱりか。」
さほど驚くでもなくあっさり返すロイに、マルスは疑問を浮かべた。ロイは至極当然としている。
「今のマルスの様子見てれば、誰だって予想つくって。」
「あ…そっか…。で、ロイは料理は…」
「心配すんな、出来るから。」
その言葉にマルスの表情が少し明るくなった。とは言っても、普段よりはまだ暗いような気がする。
やれやれ、とロイはため息をついた。
「料理なんて、出来ないって思ってても結構出来るもんなんだぜ?」
「ん…でも、僕は本当に出来ないから…。」
マルスがこんなに弱気なのはなんか珍しいな、と思いつつ、ロイは厨房へと歩き出した。

厨房に到着して、大人数の食料が入っている冷蔵庫の中身を見ながら、ロイは呟いた。
「ん〜…何作るか…。」
マルスは何が良い?と聞こうと思いロイが振り向くと、先ほどより辺りに気難しい雰囲気を作っているその人物が見えた。
無言であり、表情はとてつもなく硬い。
「…マルス?」
「…え、あ…な、何だい?」
マルスの様子が明らかにおかしい。こんな様子のマルスなんてめったに見るもんじゃない。
やっぱり料理のことが不安なんだろうなと考え、ロイはマルスに言った。
「マルス、俺が料理できるって言ってもそんなに上手くないと思ってるんだろ。」
「え…い、いや…別に僕は…」
「心配すんなって。リンクがいなくても問題はねえから。」
「う……。」
変わらないマルスの様子に、ロイはもう一度ため息をついた。

「あ、マルス!悪いけど今手離せないから、醤油とってくれねえか?」
「え、醤油?」
「ああ、そこの戸棚にあるはずだから。」
『そこ』という時点でロイがある方向を指差す。マルスはそれを見て、そちらに走っていった。
結局、マルスが『全然料理が出来ない』と言っていたので、大半のものはロイが作る事になっていた。
その分、ロイが忙しく、マルスが暇になりやすいのは当然である。
マルスは一通り探した後、こう叫んだ。
「…どこにあるんだい?」
「は?醤油がない訳ねーだろ?」
ロイは視線を移さず答える。マルスは困っているのか、うーんとうなっているのが聞こえた。
「だって、これはドレッシング、これはソース、これはマヨネーズだし、これは…ソース?」
その呟きに苦い顔をするのはロイである。今手を掛けている鍋の火力を弱め、仕方無しにマルスの隣まで走ってきた。
同じような位置に立ち、今までマルスがずっと見ていた調味料を一通り見て、ロイはすぐ一つのものを掴んだ。
「これが醤油だよ」
マルスはその速さに驚くばかりである。
「え、なんでそんなにすぐに分かるんだ?」
戸棚を閉め、先ほど調理していた鍋の所に歩きながら、ロイは呆れ顔をした。位置的にマルスにはその表情は見えないが、何となくそんな様子をされたのは分かるようだ。
「色で分かるだろ…」
「あっ…でも、ソースも似たような色じゃないか?」
鍋にドバドバと分量を入れ、ある程度の量でピタリと止め、左手に持っていた醤油をまな板に置きながらロイはまた振り向く事なく返した。
「ちょっと傾けてみれば、水っぽいかドロッとしてるか分かるだろ」
「ああ……そっか」
いまだに調味料の戸棚の所にいるらしいマルスの声に、ロイはふっとあることを思い出した。
「ってマルス、魚はどうなってる?」
「え?…あっ!」
マルスは走っていって魚を窓から眺める。その後、これじゃ分からないと考えたのか取り出してみた。
ちなみにロイは鍋を見ているので気づくはずはない。
「ちょ、ちょっと…黒くなっちゃったかも…」
「え?」
マルスの呟きに、ロイは鍋はひとまず置いて近づいてくる。
彼の視界に映ったのは、魚を焼く網戸の上にある…かろうじて魚の形をとどめている、黒い物体…としか言いようがないものだった。
ロイは口をポカンと開けて、一瞬固まった。
「…焼きすぎだ!どっからどーみても!!」
「…やっぱり…かな?」
視線をほんの少し動かして、火力のつまみを見ると、それは自分が先ほど『弱火から中火ぐらいな』と言っていたにもかかわらず、最大火力だった。
「マルス…これの火力、どのくらいが良いって俺言ったっけ?」
「えっと…弱火から中火くらいだっけ?…って、あれ!?なんで強火に!?」
どうやら本人も無自覚だったらしい。
ため息をつきながらとりあえず魚の火を止め、遠目に自分の作っている鍋は平気であるのを確認して、ロイは少し見上げる形でマルスを見た。
相手は無言で苦笑いしている。
無意識に、またロイはため息をついていた。
「…じゃあ、そこの鍋にある芋を潰してくれ。これなら失敗しないだろ」
「ああ、分かった…」
大きめの鍋を指差し、相手がそちらに歩いていくのを見て、ロイは『鍋、熱くなってるから気をつけろよ』と注意した。
「それくらいは…多分平気なはずだよ…」
きちんと熱くならない所を掴んで、潰しやすいようテーブルの上に運…ぶはずだったのだが。

ガッ

「わっ!?」
「え?」

ガッシャーンッ ドカ ボタ

「…………」
ロイはその様子を見て絶句した。
「いたた…」
マルスはそう呟きながら振り向き、自分の右足を引っかけた物を見た。
調理用の長い箸が戸棚に引っかかって、見事に罠のような状態が出来上がっている。
「マ…ル…スぅ?」
『何、』とマルスは返事をしようとして、ロイの顔を見て言葉を無くした。
口の端が釣り上がってはいるものの、目も先ほどの声も全く笑っていない。
マルスが振り返って見ると、鍋は逆さまになっており茹でた芋はその周りに散っていた。
こんな状態の物を食べれるのは、カービィかヨッシーくらいしかいないだろう。
「マルスっ!!」
「あ、ご、ごめん…
小声になりながらも謝罪の言葉を述べるマルスに、ロイはこれ以上注意しても無意味だなと思い、息をついた。

それからというものも。
高温の油に入った空揚げを出そうとすれば水で洗った網ですくおうとして油をはねさせ。
「わわっ、あつっ!」
「おいマルス!火消せ火…って火力増やしてどうする!?」
「あっ、間違えっ…あつつっ!」

卵を温めろと言われればレンジに掛けて爆発させ。
「え!? な、なんで急に…?」
「卵はレンジ掛けちゃダメなんだよ!何個入れた!?」
「えと…五個ぐらい…」
「…馬鹿…」

鍋の中身をこまめに混ぜろと言われれば混ぜすぎて具が溶け。
「…あれ…?これってスープだったっけ?」
「具が細かくなりすぎてんだよ…」

野菜を切ろうとすれば当然の如く自分の指を切り。
「ごめんロイ…普通のピーマンが赤ピーマンになっちゃった…」
「マルスの血がついた野菜なんて食えるかよッ!!」

「あれ?ロイ、これってどこまでが皮なんだ?」
「半分以上、身を捨ててる…つーか、俺は玉ねぎじゃなくて長ねぎって言ったんだっ!」

「野菜サラダにソース入れるなっ!」

「箸なんか入れたらミキサー壊れるだろっ!!」

「包丁そんな風に持ったまま歩き回るなっ!」

「あ、甘ッ! お前塩一杯って言ったのに砂糖山盛り入れただろ!?」

「どーして何にもないところでもつまづくんだっ!?」




「…もういい」
「へ?」
やっとロイの大声が減ってきたと思ってきた矢先、マルスはそんな言葉を聞いた。
「マルス、お前が一番得意な仕事を頼むよ…」
「え?」
マルスに出来る料理など無い。少なくとも本人はそう思っている。
ロイは自分より高い位置にある肩に手を置いた。
「……カービィと遊んでろ」
「…は?」

マルスは言われた言葉に、数秒、間を置き、そう答えた。
「カービィがつまみ食いしに来ないよう見張ってろ!!」
ロイは怒りを含んだような声でマルスに言った。
マルスはその言葉の深い意味を理解し、苦笑いする。
(つまり、邪魔だからいなくなってくれ、と…)
「そのほうが色んな人にとって有難いって事、自分でよぉく理解してるんだろ?」
ロイは『よぉく』という言葉を強調するように言った。
その顔は、どこかヤケになっているようにも見えなくも無い。
「心配すんな。料理は俺が一人で全部作ってやるから!!」
「え、でも…で、できるのかい?」
上等だ。やってやろーじゃん。」
見える見えないの問題ではなかった。ロイはヤケで言ったのである。
マルスは呆れたような、非常に申し訳なく思っているような苦笑いを見せた。

結局、その日の朝食は、誰もが不思議には思わないような普通どおりの朝食だった。
妙な所があるとすれば、ロイが朝食の時間中ずっとうつぶせていて全く動かなかったという事。
「お疲れ様…」
それと、マルスのそのセリフだった。



「ロイさん、マルスさん、朝食手伝えなくてすみませんでした…」
「あれ、リンク。もう平気なのかい?」
「ええ、昨日の夜、寝るのが遅くなってしまって寝坊しただけです。もう平気ですよ」
「そか…。そりゃ、よかった…。一人であんだけの量作るのはさすがにキツイからな…」
「は?」
リンクのその言葉にロイは反応を見せることはなかった。







後日。
ピチューも、ガノンドロフも、ドンキーコングですらきちんと入っている料理当番の廻りには、
マルスは正式に外されたらしい。



マルスの料理下手は、もはや下手という次元じゃない…と、そういう訳でした。
てか、ギャグ…? わ、笑える作品でもないような…;;
楽しめましたでしょうか?やっぱりキリ番リクエストの小説は不安でなりません…(滝汗
仁サマ、1900Hitのキリリク、どうも有り難うございました!

平成16年6月15日UP


スマブラ

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最終更新:18:10 2006/07/09




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