音痴な歌は好き?嫌い。<小説:スマブラTOP
音痴な歌は好き?嫌い。
「ねー!!なんでダメなのー!?」
とあるのどかな日。マルスが広間に入ったとき、いつもの聞きなれた者の叫び声が聞こえた。
カービィが小さい体をばたつかせてサムスやフォックスやらに何かをねだっているのである。
「そう言われてもなぁ…カービィは歌うと声が大きいから他人の迷惑になるんだよ。」
フォックスに自分の趣味を禁止されると、カービィは先ほど歌番組をやっていたテレビを指差して文句をつける。
「あのねぇ、カービィ…。テレビに出てる人はカービィみたいにただ叫んでるだけじゃないのよ。それに、その人の歌が好きだから聴いてるんであって…。」
「じゃあボクの歌も好きになってよ〜!!」
どうやらテレビで歌番組をやっていて、それに触発されてカービィが歌いたいと言い出したのだろう。
相変わらずだなぁ…と考えながら少しはなれた場所からその様子を見ていたマルスは、偶然サムスと目が合った。
すると…『丁度良い』と言わんばかりにサムスは笑顔になり、近くへと走ってくる。
「マルス!折り入って話があるんだけど…。」
その表情、そしてその言い草からマルスには何を言われるのか十分に推測できた。
当然、誰であってもカービィの大声音痴歌など聴きたくないのである。
「え…えと…」
マルスが冷や汗をかいていることなどサムスには関係が無かった。

「カービィのために(何よりみんなのために)、歌を聴いてあげて!!」

先ほどサムスと一緒にいた他の二人も遅れてやってくる。
フォックスも、サムスとあまり変わりない表情…悪いとは一応思っていながらもどうしようもないから諦めてくれ、とでも言わんばかりの表情をしていた。
「そ…それは…さすがに僕でも…。」
マルスが口答えしようとしたとき、カービィの無邪気な声がそれに重なる。
「えっ、マルスが聴いてくれるの〜?ホント〜!?ねぇねぇいつ、どこで!?」
相手が苦笑しているのにも気付かず早速おおはしゃぎするカービィ。
サムスは喜んでいるカービィを見て辛そうにしているマルスに追い討ちをかけるかのように繋いだ。
「カービィだって、私やフォックスよりマルスのほうがいいでしょ?」
『うんっ♪』と極上の笑顔で答えるカービィに、マルスはもはや何も反論できなかったようである。

「ねーね、いつ歌える?どこで歌うの?」
以前はこんな質問などせずに歌いたいときに歌っていたのだが、何度も注意されたためかとりあえずは『決まった時間に決まった場所でなければ歌っていけない』のだと考えるようになっていた。
これは当然、カービィやプリンだけに限ったことなのだが。
「うーん、どこなら周りに被害が出にくいかなぁ…やっぱり誰もいない場所のほうがいいし…。」
少なくとも僕は聴かなければカービィの機嫌は良くならないけど、と心の中でため息をつく。
サムスには今日の料理当番を押し付け、フォックスには子供達におやつを買うためのお金をおごってもらう、と条件を貰えたのが少しだけ幸いだった。
「終点か戦場あたりが妥当かな…。」
頭の上にいるカービィに聞こえるようにマルスが呟く。
カービィは久しぶりに行えることがその一言で身近に感じられて笑顔になった。
じゃあ行こうか、と移動しようとした時に偶然、何かを待っている様子のロイとばったり出会った。
「あれ、マルスにカービィ。どこ行くんだ?」
そっちこそ何をしているんだと思いつつもマルスが行き先を告げると、ロイは何故か驚いた表情をする。
その後、『何のためかは知らないけど』とこう繋げた。
「両方…大乱闘中だぜ?」
ロイの言葉にカービィは固まった。
せっかく大声で歌えると思ったのに、と今にも泣き出しそうな様子のカービィに困るのは、マルスである。
「かっ、カービィ!他にも場所はあるから…。」
泣きたいのはこっちなんだけど…と思いつつカービィをなだめ、仕方なしにマルスは他の場所を探し歩き始めた。
「…なんだったんだ…?」
きちんとした説明もされず行かれたロイにはさっぱり話が分からなかったような。

「他に人が少ない場所…。…アイシクルマウンテン…も僕が凍えちゃうしなぁ…。」
先ほどの二点は乱闘のために新たに作り出した場所だ、と例の手紙で言われていたので全く周りの心配がないのである。
他の場所は多い少ないはあるがやはりどこにでも人がいるので、困っているようだった。
うつむき気味のマルスにカービィも何処となくしょんぼりする。
マルスにとってはカービィが喜んでいても悲しくなるのだが、カービィはそれも知る由も無い。
「あ、マルスさんにカービィ。どうしたんですか?」
不意に声をかけられ振り向くと、そこには緑帽子の剣士がいた。
両手に袋に入っている食品が沢山あるところから、買い物に行っていたのだろう。
リンクなら何処か良い場所を知っていないかな、とマルスは期待と不安の入り混じったような声で聞いた。
「ねぇリンク。その…どこか、どんなにうるさくしても全く迷惑のかからないような広い場所とか…ないかな?」
なんて我侭な要望なんだ、と自分で感じつつもマルスはそう問いかける。
駄目でもともとの質問だったのだが、リンクは少し考えるような素振りをしてからこう答えた。
「そうですね…ハイラル平原はなかなか広いほうだと思いますよ。」
その返事に、二人は『え?』という反応をする。驚きながらマルスは確かめるように聞きなおした。
「五月蝿くても…他人に迷惑は…掛からないのかい?」
「あ、はい、恐らく。」
その返事に、マルスよりもカービィのほうが嬉しそうな表情をしたので、質問の内容も合わせてリンクには何をしに行くつもりなのか大体の予想が出来た。
さっそく向かおうとカービィに急かされているマルスに、今度はリンクが質問する。
「じゃあ、マルスさんは…。」
マルスは、リンクのその気遣うような口調のセリフを聞いて、にこ、と嬉しそうでは無い笑顔を見せた。
「僕は…観客かな。」
「……ご愁傷様です。」
リンクが言った言葉の意味は、カービィには分からなかったらしい。

どうにかハイラル平原に着くと、そこはリンクが言っていたのもなかなか納得できるような広さだった。
マルスの頭の上に乗っていたカービィも、嬉しそうにぴょんと飛び降りる。
「ここ、すっごく広いねー♪奥に何があるのか見えないやー!」
「あぁ…そうだね。」
カービィはタッタッと走っていく。見えない場所まで行かないようにと、走るカービィを追いかける形でマルスもついていく。
しばらくあたりの様子を眺めていたカービィだったが、もといた神殿が見えなくなるほどの場所まで来ると、くるっと振り向いてマルスを見た。
「で、ここでなら歌っていいんだよね!」
「あっ、ちょ、ちょっと待っ…」
ニッコリ笑いながらカービィは言うと、マルスの返事も聞かずにすぅーっと息を吸い込んだ。
誰か聴く役が必要だということもわかってはいるが、やっぱり誰にしてみてもカービィの歌は恐ろしいのである。
マルスは慌てて両手で耳をふさいだ。

近ごぉろぉ私ぃたぁちはぁ〜…いー感じぃっ♪悪いわねぇ!ありがとねぇ♪これからもぉ!よろしくねぇ〜っ♪

腕で必死に耳を押さえても、やはり音は響いてくるものである。
カービィは大声で歌うのに夢中で、マルスが耳を抑えている事には気付いていないようだ。
(…どうにか…堪えなきゃ…っ。)
あたりの空気がビリビリ言うのが肌の感覚で分かる。
あの時耳を抑えなければ、それこそいきなり気絶、くらい行っていただろう。

みぃらぁいのふたぁりにぃ〜っ!今を笑われないよおにっ!♪

一つの曲が終わると、すぐに次の歌が始まる。どうやら、歌いたい歌を沢山溜め込んでいたらしい。
マルスは腕の力を強める。

えーどーしてそ・ん・な・に・私にはいつも優しいのっ!ねえーどーしてあ・な・た・の・洋服はいつもオシャレなの♪


三十分が過ぎた頃。
カービィは全く休む様子を見せず、ずっと歌い続けていた。
疲れてくるのはマルスの腕である。少しでも気を抜いたら気絶してしまいそうなものなので、少しも休む暇はない。

あなたのぉ〜大事なぁ人ぉをぼぉくぅにぃ〜…任せてぇくだぁさいいぃ〜ッ♪

「か、カービィ…。…少し…休まないか…?」
マルスが必死にそう言う。と言っても、体力の尽きかけている者の声などカービィが歌っている大声で聞こえるはずはない。

ねぇっ!一緒にく・ら・そ・う・よ!明日もつ・ぎ・の・日・も!未来をぜ・ん・ぶ!き・みと・いたいから♪

カービィは、変わらずずっと歌い続けている。
マルスの手が、一瞬、耳からずれたことで、彼の状態は一変した。

きーみがゆーめを願うーから♪ミュージーシャーンーも張り切ぃってぇ!

バタンッ

マルスは目の前に倒れこんだ。5mも離れていない近距離で、カービィの大声音痴歌をもろに聴いてしまったのである。
だが、その倒れた時の音も、彼の大声よりは小さく、既に見てもいなかったのかカービィは全くそれに気付いてはいなかった。

めーぐーるーめーくーっ!ぎー…んーがーのなーかでー♪こー…のーほーしーがー…消ぃえ去ぁるーとーきにーはー!

普段は平和なハイラル平原で、止める者がいなくなった彼は、まるで壊れたカラオケボックスのようにずっと歌を歌い続けていた。





「…んー……ん…?…」
マルスが目を覚ました時、空はいくらか赤くなっていた。
ボーっとする頭でなんとかあたりの情報を得ようとキョロキョロと見回すと、見慣れたピンク色の球体が近くにいる。
「カービィ…?」
彼はこちらに背を向けている。起き上がろうとしてマルスは、耳が何か妙な感じがするのに気がついた。
「…?…」
水が入っているような、中に膜が張ってあるような、そんな違和感である。
一体どうしたんだろうと思いつつ、そもそもどうしてここにいるんだったかな、と考え…歌のことを思い出した。
「っ!そういえば、カービィは…。」
マルスが、もう一度、カービィが何をしているのか見ると…。

ぎーんーのーりゅー…うのー…背にーぃ乗ーってーっ!とーどーけーに行こおー♪いーのーちーのー砂漠へぇーっ!

「…歌ってる…。」
マルスは目を疑った。彼が歌を歌っているのは珍しくは無いのだが、彼の歌っている近くに自分がいるのである。
近くで聞いたら即気絶ぐらいのものであるはずなのに、マルスにはなんともなかったのだ。
(うるさいことはうるさいけど…聴いていても平気、になってる…?)
とりあえず、空が赤くなっている事からかなりの時間が経っているのだろうなと思い、マルスはカービィにぽんと触れた。
「カービィ、そろそろ屋敷に帰らないと心配されるよ。」
その手に気付き、大声で歌っているカービィがくるっとこちらを向く。声の音量が大きくなったような気がしたが、マルスはまたしても平気だった。
カービィは歌を止めた。
「あっ、マルス、起きてたんだー。いつの間にか寝てたよねー。」
その『寝てた』理由には全く気付かず、カービィがにこ、と笑って言う。マルスも苦笑を見せた。
「あー楽しかったーっ!」
満足したのか、カービィは来た方向にぴょんぴょんと飛び跳ねるように歩き始めた。マルスは来た時と同じように少し後ろを歩く。
帰るときに、マルスは疑問に思ったことを聞いた。
「ねぇ、カービィ。最後のほう…、声の大きさは小さくしていたのかい?」
質問され、カービィはぴたっと足を止め、くるっと振り向く。
「え?何のことー?」
カービィが顔を傾けるようにしてそう答えたので、マルスはやっぱりなんでもないと誤魔化した。
また歩き始めるカービィを見て、マルスはとある判断をする。
「…カービィ、君の今一番好きな歌は何?」
「え?…んーっと、んーっと、今は…『恋はブレッキー』…かなぁ?」
「その歌、今、歌えるかい?」
カービィは、不思議そうにマルスを見た。だが、マルスは悪戯等をしようとしているような様子はない。
「歌えるよー。聴く?」
「あぁ、お願いするよ。」
マルスが聴いてくれるとのことなので、カービィは嬉しそうにどこからかマイクを取り出した。
「じゃっ、いっきまーす!」

「ぶれいきん ぶれいきん まいはーと!は・な・さ・ないぃ〜っ! きみが鯉をするのはぼく鹿いぃないぃっ♪」

マルスの推測は、大当たりだった。
(カービィの歌を…僕自身が、平気になっているんだ。)
普段なら、目の前で歌っていて平気なはずがない。だが、今マルスの前でカービィはマイクを持って熱唱している。
やがて、カービィの歌っていた歌が終わった。
「やっぱりそうか。」
「え?何?」
カービィが首…というか顔を傾ける。マルスは説明しようか一瞬迷ったようだが、する意味は無いと判断して彼にこう告げた。
「これからは、歌を聴いて欲しければ僕を呼ぶといいよ。」
「…え、ホントにっ!?」
カービィが嬉しそうな声でそれに反応する。目を輝かせて確認してくる相手に、マルスはにこ、と笑った。
「ああ。」
相手の笑顔につられたのか、単純に嬉しかっただけなのか。カービィも満面の笑みを浮かべた。



後日。
偶然テレビで歌番組をやっていたのか、聞き覚えのある歌詞を聞いてマルスは振り返った。
それを見ているのは、ロイ。
「ロイ、今の歌はなんていう歌なんだ?」
「あ、マルス。確か…『恋はブレッキー』って歌だったな。」
その言葉に、マルスは思い出したように『あぁ』と反応する。
「道理で、聞き覚えのある歌だと思ったよ。」
「? …どこで聴いたんだ?」
普通に聞いてくるロイに、マルスは…普段のネスのような、全てを知っているような不敵な笑みを浮かべる。
「カービィが好んでいてね。歌えるときにはいつでもその曲を歌うんだ。」
「あぁ、成る程……………って、えぇ!?
平然とそう言いながら自分の隣りに座ってテレビを眺めるマルスを見て、ロイは自分の耳を疑った。
「か、カービィが?」
「ああ。音程は当てにならないけど、歌詞なら僕も十分に覚えちゃったよ。」
ロイの視界には、頬杖をついて視線をテレビに向けながら答えるマルスの姿があった。
「てか…平気、なのか…?」
「え? …ああ、そういえば。」
今やっと思い出した、という様子でマルスはロイに視線を移す。フッ、と笑ってからマルスは感心したように言った。
「人間って凄いね。あんな凄い歌でも、慣れればなんとも思わなくなるなんて。」
「……へ…?」
ニッコリ笑っているマルスに、数秒遅れて、驚いたロイの動きが止まる。
「……えーと…どういう…意味…?」
ロイの途切れ途切れになりがちなその言葉に、マルスは『別に大したことじゃないよ』と遠慮がちに答えた。
「カービィの歌を聴いていても平気になるくらい聴かされた、ってだけだから。」
ふぅ、とため息と共に立ち上がるマルス。ロイはその事実に何か恐いものを感じ、固まっていた。
「あ、…ち、ちなみに…カービィにはなんて言ってあるんだ?」
「え? ああ、僕が良いよと言ったらどこでも歌って良い、っては言っておいたけど?」

今度マルスを怒らせたら、強制的にカービィの歌を聴かされそうだな……。

そのロイの推測は事実を間違いなく捉えていた。



カービィが歌っているところの歌詞を書くのが楽しかったですー(笑)。私も彼並みに歌が好きなので★
カービィはどんな歌でも歌なら好きですよー。知らない歌を聴いたらすぐにでも覚えようとします。
でも歌うのは禁止されてます(笑)。
このお話があった後、マルスはいくらカービィの歌を近くで聴いても平気になりましたとさ、とそういう事になります。
とりあえず、このサイト内ではこんな様子でよろしくです(謎

平成16年4月27日UP


スマブラ

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最終更新:18:08 2006/07/09




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