頂き物 −花の連環−<夢小説:三國無双TOP










   命日には、毎年花を供えに行った。
   城の裏手にある小高い丘の上の、
   父上の墓。
   本当はあの地へ行くのが筋だと思う。
   父上はあの夏口の地にいる。
   だけど、
   俺自身未だにあそこへ行くのに踏ん切りがつかないのと、
   毎日忙しいのとでなかなか遠いあそこまで行く時間もない。
   ま、後者の方は自分に対する言い訳みたいなもんだけどね。












−花の連環−







凌統が父の墓へ行くのは年に一度、命日の日だけだ。
あの戦いから何年経っただろう。
人の記憶は常に新しいものが優先される。
古い記憶や思い出は新しく入ってきたそれに押しのけられて、
年月と共に人々の中から薄れてゆく。
溢れる水のように、零れて、そして流れて。
何年かの間に、めまぐるしく呉は動いた。
今の孫呉の将の中であの戦いを鮮明に記憶しているものはもう多くは無い。

彼、凌統と、

 ―その仇、甘寧以外は。


しかし凌統にはひとつ解せぬことがあった。
毎年父の墓へ行くと必ず、先客があったのだ。
盛土と碑だけで、亡骸の眠らないその墓に、
いつも新しい花が供えられていた。
最初の数年はたいして気にも留めなかった。
父は古参の将で部下からも慕われていたし、
その頃はまだ父、凌操の命日を覚えているであろう者も多かったから。
でもだんだんと年月を経るごとに、違和感を感じざるを得なくなった。
父のことを思い出す者は、今ではもう少ないはずだ。
それだけ、世の中の動乱は激しい。
ましてわざわざ命日に花を供える人間がいるとは。
花を供えているのは一体誰なのか。
あいつが、とは思わなかった。
いい意味でも悪い意味でも、そんな奴じゃないことは分かっている。
だとしたら誰なのか。
考えてみても、凌統には全く心当たりがなかった。

いや、本当のことを言えば、
誰でもよかったのだ。

誰だか分かった所で何かが変わることはない。
尊敬する父が戻ってくるわけでもない。
どうせ年に一度、あの場所で心に留めるだけの小さなこと。












城下の花売りから、今年も花を買った。
またあれから一年が経った。
凌統はこれまでと同じように日が暮れる頃あの丘に向かった。
手に持った花をすれ違う人に見られぬよう、布で隠す。
これも毎年していることだ。

何度登っただろう、この丘を。
あれから自分も年齢を加えたが、ここを登るとあの戦のことを鮮明に思い出す。
凌統は唇を噛んだ。
あの時も。

―父が討たれたあの時も、

こんな風に戦場は眩しかった。


丘の上では金色の光が、少し遠くにある父の墓に降り注いでいた。
凌統は思わず手を目の上にかざす。
墓の前に黒い影。
目を凝らすとどうやら人のようだ。
訝しげに、若干警戒心を含ませ彼は言った。

「そこで何してんだい」

一瞬吹いた風に乗って、彼の良く通る声はその影まで届いたようだ。
黒い影が、動いた。
だがそこから立ち去るわけでもなく、墓の前に変わらず佇んでいる。
凌統は黙ってその影に近づいた。

近づくにつれて影の正体がだんだん見えてくる。
見知らぬ女。

女?










女が何故父の墓にいるのか凌統は理解できなかった。
父と縁のあった者だろうか。
しかし息子の自分でもそんな女に心当たりが無い。
同族にもこんな女はいなかったはずだが。だとしたら誰だ?

「凌統様・・・」

女はただ腰を折って頭を下げるばかり。
見れば墓の前に、真新しい花が置かれていた。
本来は色とりどりの花も、金色に染まってどれも紅く見えた。

「それ、あんただったんだな」
「差し出がましいことをして申し訳ありません・・・」
「いや、別に構わないさ」

誰であろうと、命日に父の墓に自分以外にも花を供えてくれる人間がいる。
凌統はこの女のことは知らないが、その心は嬉しかった。
女の置いた花の隣に、自分が隠して持ってきた花をそっと置いた。
「で、あんた誰?毎年来てるみたいだけど」
「はい・・・。昔、凌操様に助けていただいたことがありまして」
「父上に?」
「ここから直ぐ西の街に入ってきた賊に、襲われそうになっていた所を」
女は静かに言った。
おそらく昔、賊の討伐などに赴いた時に父はこの女と出会ったのだろう。
昔は城の側って言っても治安は今ほど良くは無かった。
父はやはり自分が尊敬していたままの父だった。
自分の知らないところでも、こうやって人を助けていた。

「本当は夏口の地までお花を届けられたらいいんですけど・・・」

知っていたのだな。ここに父上はいないと。
そうだな・・・。
本当はそれができたらどんなにいいか。

こんな一度の恩を忘れずにいる女でさえかの地へと思うものを、
息子の自分が行く勇気もないなんて知ったら、
この女、どう思うだろうか。

「遠いぜ、あそこは」

それは、誰に言っているんだ公績。
目の前のこの女か、
それとも吹っ切れないままの自分か。

「遠いと思えば遠いのでしょうね」

俺の本心を知ってか知らずか。この女、刺みたいなことを言いやがる。
優しい顔してんのに。

「でも、遠ざけているのは凌統様ご自身ではありませんか?」

ご無礼は重々承知しております、と女はまた頭を下げた。

「そうかもな」

言う通りだ。
過ぎ去ったのは年月だけで、俺の中では何も終わっちゃいない。
本当はもう終わらせなきゃいけない、こんなことは。
それは分かってるさ。
父上の死からずっと逃げてきたことも・・・分かってる。
嫌だったんだ。
父上の死を認めたら・・・あいつの存在を認めなきゃいけなくなる。
それじゃ父上に顔向けできないって思ってた。
でも、それもどうかなぁ・・・。
父上が生きてても、こんな俺じゃ激昂されてたかも知れないな。

「苦しんでおられるのですね・・・」

「ああ。苦しいな」

凌統は女を見なかったが、女はずっと彼を見つめていた。
それからどのくらい時間が経ったのかはよく分からないが、二人ともただ無言だった。
日がすっかり落ちて薄暗くなってきた頃、女がくるりと踵を返した。
「わたしはそろそろ・・・失礼いたします」
また頭を下げ、凌統の隣から去っていく。
規則正しいその足音が凌統の耳にやけに響いていた。

「あんたさぁ」

気付けば衝動的に女の背に声を掛けていた。
女が驚いたように立ち止まって、ゆっくりと振り返る。
今度は先ほどの夕陽ではなく暗くなったせいで、その姿はまた影に見えた。
「名前、なんつーの?」
「名乗るほどの者でもございません、凌統様」
「あんたは俺のこと知ってんのに?」
「・・・・」
「父上はあんたのこと知ってんのに?」










と申します・・・」

か。なあ、明日暇?」

黒い影となってはっきりとは分からないが、明らかに女は戸惑っている。
「厳密に言うと、明日から数日間」
「え?」
「ちょっと空けてくんないかな。明日の朝迎えに行く」
「凌統様?」
「すぐ西の街だろ?行ったことあるから分かるよ」
「そ、そうではなくて、その・・・」




「一緒じゃ嫌かい?」



「・・・・・」



「顔を見たのはついさっきだけど、俺はあんたと行きたいんだよ」



「・・・・でも・・・」




「・・・父上が死んでから、毎年花をくれたあんたと」




何故だか分からないが女はくすくすと笑っていた。
「何だよ、俺なんか変なこと言った?」
「いえ」
「じゃなんで笑ってんの」
「だって・・・」
「?」
「名前を名乗っても結局『あんた』って仰るから」





「ああ・・・ごめん、





仕事なんかは数日ぐらいどうにかなるだろう。
今の俺にとっちゃ仕事よりも大事なこと。

やっと、
決心がついたんだ。

















昨日に続いて、今朝も花売りから花を買った。
あそこへ着くまで持ちはしないだろうが、とりあえず買った。
駄目になってしまったら、また近くの町で買えばいい。
凌統はそのまま手に花を持ち厩へと向かう。

厩で、あいつに会っちまった。
会ったってか・・・俺を待ってたみたいだ。
あー気持ち悪い。

「よう凌統!」
「朝っぱらからあんたの顔なんか見たくないんだけどね俺は」
「花か。女にでもやるのか、それ?」
「ん。まぁそんなとこだ」
「・・・・そっか」
「何だよ?」
「気いつけて行って来いよ」
「はぁ?何言ってんの」

あいつには誤魔化したって無駄だってのは分かってた。
だってあいつも数少ない一人だから。
俺と、と、あいつ。

凌統は自分の愛馬に跨ると腹を蹴った。
西の街までは川を渡ればすぐだ。
街の入り口に着くと見張りの兵が恭しく頭を下げた。
護衛も連れず、軽装で花を持った凌統を、彼らは不思議そうな眼差しで見ていた。
「あのさぁ、って子の家、どこ?」
「へ?」
突然凌統に話し掛けられた門兵は慌てて礼をする。
「ここに住んでるってことしか知らないんだよね」
「は。確か・・・中心部にある兵の詰め所の隣だったと思いますが」
「そ。どうも」



兵に教えられた通りの場所へ辿り着いた。
と、一軒の家の方向から馬を連れたがやって来た。
彼と同じように、軽装で、鮮やかな花をその手に持って。

「夏口まで遠いけど付き合わせてごめんな」
「いえ。わたしも凌操様にもう一度お礼が言いたいですから」
朝日の中で微笑んだその女はひどく美しく見えた。
「なーんだ。父上の為だけか?」
「えっ?」
「まぁいいんだけどな」
「いえ、それだけでは・・・」
赤くなって俯いたを見て、凌統は笑った。

「さてそれじゃぼちぼち、行くとしますかね」
「はい。宜しくお願いいたします」
「そんな硬くなるなって。俺は城へ戻るまでは将軍じゃないからな」
「では・・・?」
「凌公績ってんだ」
「?」
「全く、鋭いのか鈍いのか・・・」
父上の墓の前では刺みたいなこと言ってたのに。
凌統が苦笑するとそんな彼を見ては「あ」と小さく呟いた。






「宜しくお願いします、公績様」
二頭の馬は歩調を合わせて歩き出す。
少しだけ、顔の赤い主をその背に乗せて。



















「あかいペディキュア」の三上ゆの様より、フリー夢だったので頂いてきましたvv
というか最初はフリーではなかったんですが、欲しいという方がいるならとの事だったので立候補。(爆
三上ゆの様、素敵な夢をどうもありがとうございました♪

平成17年9月3日UP


三國無双

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最終更新:12:16 2006/06/27




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