プロローグ
「ねー、そこのねーちゃん!最近、退屈してるでしょ?」 夜道を歩いていたは、ふと聞こえた男性の声に振り返った。 男性は道端に大きなダンボール箱を置いて、小さなダンボール箱に座っている。つばのついた帽子を深く被っていたため、顔はほとんど見えなかった。 の足が止まったのに気付いたようで、男性は続けた。 「あんたの運命を変えるアイテムがここにあるよ〜。買ってかないかい?」 『ああ、なんだ、そういうことね』とはため息をついた。 「悪いけど、私そういうの興味ないから」 「そんなつれないこと言わないでさ〜。見てみなよって」 はしぶしぶそのさかさまのダンボール箱に近付いていった。どうせこういうものは、外見と値段ばっかり凄くて、効果なんて無いくせに、とは思いながら。 だが、商品を見たの目は見開いた。 「何これ……紙?」 「そ。外見ばっかりそれっぽいものよりもよっぽど信じられるだろ?」 ダンボール箱に置かれていたのは、二枚の色紙だった。青い紙と赤い紙が人の形に切られただけの代物である。 「人形っていうんだぜ」 「ひとかた……?」 は屈み込んで、その二枚の紙を見た。どちらかといえば厚いもののようで、持ち上げただけでぐにゃりと曲がったりはしない。 「一枚100円だ。買ってかないか?」 その男性の声に、はっと気付いては商品らしき紙を置いた。 「買わないって言ってるでしょ」 スクッと立ち上がり行こうとするに、逃がしてなるものかといわんばかりに男性はまた喋り出した。 「ねーちゃんが買ったら店じまいすんだからさ〜」 「……特別扱いしようったって無駄だから」 男性から視線を逸らしつつ、は答える。だが男性は態度を変えず、まだ続けた。 「んー、じゃあ、半分の50円にまけたげるから」 「…………」 何も返さなくなったに、男性は口の端を吊り上げ、先ほどまでの軽い調子とは違った様子で言った。 「でも、ねーちゃん、最近退屈してるってのは図星だろ。だまされたと思って、買ってみなって。夢のような出来事が起こるぜ」 がこの場を離れられない理由は、これにあった。確かに自分は退屈している。日常の中で色々な事が起こるにしても、次の日になれば忘れている程度の些細な事ばかりだった。 はもう一度、安上がりな小さな店の近くまで歩いてきた。 そして、ひょいっと、片方の紙を持ち上げる。 「……ま、だまされてたって、この程度の値段なら困らないしね」 「さっすが、ねーちゃん!あったまいい〜♪」 手を出し、『じゃ、50円ね』と言う男性に、は財布を取り出し、小銭を一枚手渡した。 「まいどあり〜」 さてと、と男性はに選ばれなかった色の人形を持ち、土台として使っていたダンボールを片付け始める。 その様子を見て歩き出したの足音に、男性はあることを思い出した。 「月の輝いてる夜、窓辺に飾っておきなよ。きっと面白いことが起こるから」 その声に、は何も返事をしなかった。 裏話も何も無いに等しいものですが、一応布石って事で。 読まなかったとしても全く問題はありませんけどね。 特別扱いするのはこういう商売柄けっこう有効な手らしいですよ(笑/何 |